研究所の倉庫から見つけたんですと、満面の笑みでゼルダが持ち帰ってきたのは小さな竪琴だった。
「弾けるの?」
「一曲だけ。あんまり上手じゃないから笑わないでくださいね」
そう言って、若い妻が爪弾いた曲が懐かしい調べだと気が付いた時、リンクは思わず昔歌った詩を口ずさんだ。
とうの昔に変わった声色は、掠れ声どころか高音が全く出ない。それでも歌い終わって二人で顔を見合わせてくすくすと笑った。
「見つけた」
「私も見つけました」
身長はあれから伸びるには伸びたが、やはり思ったほどではなかった。女顔も女装できるぐらいには健在。
声ばかりが相応に低くなったリンクは、あの壮年の医師の言葉を思い出してベッドサイドの窓を押し開けた。
大きく明るい月がゆっくりと昇ってくる。奇しくもその日は満月だった。
「もう歌えないけど、確かにささやく程度にはちょうどいい低さになっちゃったな」
「何の話です?」
「大昔、悪い先生に教わったセリフがあってね」
きょとんとしている彼女の長い耳に、息がかかり触れるほど近くまで口を寄せて、彼は囁いた。
「月が綺麗ですね」
了
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