もみあげ近衛伝説 - 2/2

 

 散々な目にあった。

 久々の休日だと思って羽を伸ばしていたところに現れた少女。それが俺の顔を見るなり「おとうさま」って。

 いつから自分が子持ちになったのかと頭を抱えたが、どうやらその子はコログと一緒で誰の目にも映らないようだった。だったら人違いだろう。金の髪で青い目で、手の甲には王家を象徴する印が輝いている。

 その子は「おとうさまがあそんでくれたらかえるね」というので、しょうがない休日の丸一日をコログまとめて遊び相手をしてやった。ところが次ぐ日になってもまだ部屋に居座り、あろうことかもみあげを三つ編みにしろとせがまれた。

 さすがにそればかりは仕事だから許してほしいと言ったが、「だったらかえらない」と涙目でふくれっ面をするので致し方なく三つ編みにした。

 姫様には酷く不快な思いをさせてしまった。しかしながらあの少女もまた時代が違えば、姫君だったのだろうとは容易に想像ができた。だから無下に扱うことはできなかった。

 ただし、俺のことを父親呼ばわりするのだけは止めて欲しかったが。

 そんな少女が、薔薇園の奥に入り込んで姫様と話をして、消えるところを見た時にはとても安堵した。決して姫様に悪戯をするつもりではなかったことも、あるいは姫様にお姿が見えたことも、喜ばしいとさえ思った。

 ただし代償がこれだ。

「困った……な?」

 いくら髪に櫛を入れても、水をつけても、俺の硬い髪は昨日からの三つ編みで見事にうねうねになっていた。直らない。しかも髪留めは姫様に取られたままで、代わり縛るものもなかった。困った。

 困っていたら刻限になってしまったので、そのまま姫様のところへ向かった。昨日あれだけもみあげ三つ編みで騒がせたのだから、これぐらいどうということはないだろう。途中の廊下で、顔見知りの騎士に「お前誰だ?!」と笑われたけれど、あまり気にならなかった。

 ところが顔を見た瞬間、ぷっと姫様が噴き出す。これは珍しいことだった。

「姫様、あの……」

「は、はいっ……!」

 どうぞと差し出される青い髪留めを受け取る。

「ご、ごめんなさい、もうしませんっ」

 必死で笑いをこらえられている様子だが、そんなに面白い髪型だったろうか。うねうねする髪を手櫛で整えて、いつも通り青い髪留めでひとまとめにした。

 それからしばらくして変な噂がたったことを知る。俺の髪を三つ編みにすると、天変地異が起るというのだ。なんだそれはと思ったが、そのうち消えるだろうと思って放っておいた。

 その噂を知ってか知らずか、姫様が次に俺を三つ編みにしたのは百有余年が経ってからのことだった。しかもあの時の少女が「おとうさま、みつあみかわいいね」と目を輝かせて膝に乗っていた。

 

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