某氏の日記 - 2/2

 ゼルダが日記をつける姿を見て、そういえばと思い出す。百年前は俺も日記をつけていた。それで、それを先輩に見られていた。

「あの先輩、優しいんだか何だか分からない人だったな……」

 彼女が日記を書き終わるのを待ちながら、ベッドの上で転がりながらシーカーストーンの地図機能を呼び出した。ハイラル城のあたりを拡大して、今持てる限りの記憶から自分が生活していた場所を探す。

 騎士の独身寮は果たしてどのあたりだったろうかと眉をひそめた。なんとなくこのあたりだったかなと思う場所があって、次の日行ってみようと体を起こす。

「ゼルダ、明日ちょっと城に行ってきてもいい?」

「まぁいきなり。どうしたんです?」

 目を丸くして振り向くので、そんな大層なことじゃないと首を横に振った。

「少し探し物したいと思って」

 あるかどうかは分からなかった。

 でもこの百年、厄災に飲まれていた城の中でゼルダの日記も陛下の日記も朽ちずに残っていたのだ。だとしたら、あの変に優しい気遣いをする先輩騎士が最後にどうなったのかぐらい、彼の日記も残っていやしないかと、ふとそんな気がした。

「このあたりだと思うんだけどな」

 すでに厄災はなく、残るは瓦礫ばかり。でも何となく自分が生活していた辺りだけは分かった。ここが階段で、扉を三ついったところ。はいってすぐのところにベッドがあって奥にそれぞれの机があったはずだ。

「……わ、あった」

 まさかとは思ったが、退かした瓦礫の下にそれらしき本を見つける。俺のじゃない、とすればあの先輩騎士の日記だろう。

「先輩も読んだんだから、俺も読みますからね」

 言い訳をせずとも俺は大抵の知り合いの日記を勝手に読んでいた。しかしこの時ばかりはなんとなく言い訳をして、それから開いた。

『あいつは、リンクはいいやつなんだがどうも頑ななところがある。もう少し肩の力を抜けばいいものを』

 ハハハと笑いが零れる。やっぱり百年前の俺はこんな風に思われていたんだ。

『ゼルダ姫のことを気になっている割に、表情が硬すぎる。やはり先輩である俺がアドバイスしてやらんといかん』

「余計なお世話です先輩」

 ただ、先輩のアドバイスのおかげかは分からないが、時間はかかったが俺は今ゼルダと幸せにやっている。ありがとうございますと空に向かってお礼を言った。

 ハイリア人だったから、あの厄災が溢れた日に生き残ったとしても、もうこの世にはいないだろう。先輩に親兄弟がいたかは覚えていない。だからこの日記は誰に渡すでもなく、俺が預かってもいいだろうか。

「最後、どうしたんだろうなぁ……」

 思えばここに残された日記に最後の日どうしていたかなどというのは書かれていないだろう。それでもなんとなく気になって探しに来てしまった。それぐらい、俺にとっては珍しく親しい間柄の騎士だった。できれば穏やかな最期であったと願いたい。

 あのおせっかいな先輩が最後の最後に何を書き記したのか、気になってパラパラとめくる。

『しかし、どうしてあいつ、生えないんだろうな。こればかりは俺も的確なアドバイスができない』

 うるせぇ!と思って日記を放り投げた。

 

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