ハテノ村には2人の美女が居る。1人はツキミさん、宿屋トンプー亭の看板娘さん。もう一人は村はずれに暮らしているゼルダさんだ。
ゼルダさんは幼いころから丘の上のプルアばあさんのところに出入りしていた才女だが、10年ほど前から村の一角に居を構えて村の一員になった。すでに三十路を遥かに超えているというのに輝くばかりの美しい女性だ。
ところが聞いてくれ、数か月前にそのゼルダさんのところに若い男が転がり込んだ。名前はリンクといった。若い娘どもに人気のモテそうな若者だ。すぐに2人はねんごろの中だと村中に知れ渡ったし、当人たちも隠そうとしない。
ゼルダさんはあんな男のどこが気に入ったんだ! 年下でよいのなら俺のような質実剛健な男も目の前にいるというのに!
……と怒り心頭だったのだが、ある時2人はケンカして、モテそうな若者の方が家出をする事件があった。奴の家出の間、ゼルダさんは魂が抜けたみたいになっていた。ここぞとばかりに彼女にすり寄って好い仲になろうとする村の若い男たちと、サクラダさんをはじめとする女性陣との攻防がしばらく続いた。
だがモテそうな若者はきっかり10日ののちに戻ってきて、俺たちが滑り込む余地は無かった。残念だ、非常に残念だった。
それどころかモテそうな若者は、あろうことかゼルダさんの持ち家を改築するようにサクラダさんに話を持ち掛け、建築資材なんかはなんと自分で採ってきた。
それで何を始めたかというと。何と料理屋だった。いわゆるカフェとでもいえばいいのだろうか。
試しに食べに行ってみたら案外美味くて、今じゃアマリリさんやナギコさんたち井戸端会議メンバーが月に数度、議場にしているぐらいだ。あいつ、顔がイイだけじゃなくて料理までできるなんて卑怯じゃないか。女神は二物を与えないって、あれは嘘だ。だが美味いのだからしょうがない。
だから観光客ウォッチングを生業としている俺から、観光客の君にアドバイスだ。ハテノ村に来た時、迷ったら宿屋はトンプー亭、何か食べたいなら村はずれのカフェに行けばいい
ただし一つだけ忠告しておく。
あそこの店は確かに美味しいが、とにかく量が多い。だから大盛は頼んではいけない。そうでないと、この俺の腹のようになるぞ。
カランコロンと扉の鳴子が揺れ、その音と重なるようにしてカラコロと音が鳴った。でも戸口には客の姿はない。いや、他のお客さんに見えていないだけで、俺にはちゃんと見えていた。
「いらっしゃいませ、窓際の席へどうぞ」
はるばる遠い森から、ようやく来てくれた。
この日のために設えた小さな席に、俺は大事なお客さんをお通した。
了