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こうして僕は、シメジ、ほうれん草、トマト、ニンジン、カボチャの話を聞き、結局もといた冷蔵庫の野菜室の隅っこに戻ってきた。そこにはまだ、あの1本飛び出していたシメジが転がっていた。
「おかえりーどうだったー?」
「考えさせられる話ばかりだった」
「ピーマンは考える野菜だねぇ」
相変わらずシメジは能天気にケラケラ笑っていたが、いくら考えても僕は子供たちに自分を食べてもらう計画が立てられなかった。PDCAのPすら達成できていない。
これは困ったなぁと思っていたその時、ガラリと冷蔵庫の天井が開いた。
ぬっとお母さんの手が伸びてきて、僕を掴むとしげしげとその様子を見られた。そんなじっくり見なくても僕はピーマン以上の何物でもない。食べてもらえないピーマンなのだ。
「パパ、肉詰め好きだから明日作ろうかな」
袋詰めにされた数を数えられ、足りない材料をメモ書きして、お母さんは僕を野菜室に戻す。シメジの隣に戻ったとき、僕は言いようのない胸の高鳴りを感じていた。
「よかったじゃん」
「うん、そうだな。別に大人になってから食べてもらえればいいや」
思えば、この家のお父さんもお母さんもピーマンの肉詰めはそれなりに好きなのだ。大人は普通に食べてくれる。ならばきっと10か月の妹ちゃんも3歳のお兄ちゃんも、いずれ僕を食べてくれる日も来るだろう。僕はその時まで待てばいい。
「結構簡単なことだったんだな」
ところがお兄ちゃんが肉詰めの美味しさに目覚め、お父さんから横取りする勢いで食べ始めるのはこの直後のことであった。
了