野菜の時間 - 1/7

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 僕は無情にも閉まりゆく冷蔵庫の扉を見上げていた。今日こそ食べてもらえるのではないかという淡い期待の糸がふっつりと切れる。ぱたんと閉じて暗くなった野菜室の隅っこで、僕はため息を吐いた。

「ピーマン、君また残されたの?」

 ころりと隣に転がってきたのはシメジだった。使いさしの袋から飛び出た1本が、冷蔵庫の野菜室の隅で項垂れていた僕を見下ろしていた。

「箸先すら触れられずに晩ご飯は終了しました」

「ピーマン嫌いな子は多いからね。仕方がないよ」

「仕方がないで済まされるか!」

 呑気そうにやれやれと無い肩をすくめるシメジに、僕は思わず怒鳴ってしまった。

 僕たち野菜が集うこの家には、10か月の女の子と3歳の男の子、2人の子供がいる。お母さんは目下、妹ちゃんの離乳食とイヤイヤ期のお兄ちゃんのご飯を作ることに必死だ。

 その中でも毎回残されるのは僕ピーマン。もはや食べてもらえないのが悲しいのを通り越して、己が不甲斐ないとさえ思えてくる。

 お母さんが必死で調理してくれるのに、食べてもらえない自分が情けない。むしろこのまま座して待っているだけでいいのか?

 僕は立ち上がり、拳を握りしめる。

「どうしたの」

 惰性で野菜室の底に転がっているだけで食べてもらえるとは思えない。呑気にはやし立てるシメジに向かって、フンスと鼻息を荒くした。

「僕は食べてもらえるピーマンになる努力をする」

「なんですって」

「きっと僕に問題があるから食べてもらえないんだ。だから必要なのは計画・実行・評価・改善、つまりPDCAだ」

「じゃあ話を聞くのはパプリカ、大根、キャベツ、アボカド?」

「パプリカにだけは負けたくないな」

 ということで、僕はパプリカ以外の野菜たちに話を聞くことにした。

 どうやったら食べてもらえるのか、どんな工夫をしているのか、ともかく情報を収集して子供たちに食べてもらう計画を立てようと思ったわけである。