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僕は子供に食べて欲しいが、確かに「ピーマンは美味しい」と思って食べて欲しい。そう気が付いた時、僕の努力はどこへ向かえばいいのか分からなくなった。
そのままゴツンと何かに当たる。デコボコの濃い緑色の壁が目の前にあった。
「ピーマンか」
「カボチャさん、お久しぶりです」
のっそりと振り向いたのは八つ切にされたカボチャ、橙色の恰幅の良い野菜だった。こちらもまた子供には人気の野菜の1人、僕の憧れの野菜でもある。
「カボチャさんはどうやって子供たちに好かれているんですか」
「話を聞いて回っているというのはそれか」
どうやら僕が色んな野菜に子供たちに食べてもらう方法を聞いて回っているのが、随分とうわさ話になっているらしい。ちょっと恥ずかしいが、恥ずかしついでに聞くのはやぶさかではない。聞くは一時のなんとやらだ。
「逆にピーマンはなぜそれほど食べてもらいたい?」
「毎回残されるのが野菜としても、調理しているお母さんも不憫だとは思わないんですか」
「不憫かどうかで言えば、遊び食べに巻き込まれたカボチャもなかなか悲惨だぞ。遊び食べは幼い子の成長の1つの段階ではあるが、さすがにあれは母御に申し訳ない気持ちになった」
遠い昔を思い出すようにぼそぼそ喋るが、カボチャさんはここへ来た当初は四つ切だった。つまり遊び食べはたぶんここ数日の事だろう。
「何があったんですか?」
「下の子の離乳食に柔らかく茹でられて小さく角切りにされたのだがな、それがどうやらオモチャのように見えたらしく、投げて遊ばれ潰されて。食卓はまるで橙色の事件現場のようであった。しかも下に落ちたのを上の子が踏んで、そのままカーペットの方へ」
「足跡……」
カボチャさんは色が濃いうえ、ねっとりしているので布製品に着くと意外に落ちづらい。悲しそうに俯くカボチャさんに、僕は思わず「お疲れ様です」と声をかけてしまった。
「ピーマンよ、あまり深く考えるでない。わしなどポタージュになって兄の前に出た時には完全に『思ってたんと違う』という顔もされたし、子供とはそういう生き物なのだ」
「そう、なのでしょうか」
僕なんか毎回お皿の上で「食べたいのはこれじゃない」って顔をされている。
それでも僕は満足に食べられたいと思ってしまう。それは僕の我儘なのだろうか?
少し分からなくなって、僕はトボトボ来た道を戻り始めた。