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トマトぐらいのM気質が無いと、やはり人気野菜は務まらないのだろうか。僕ピーマンはため息を吐きながら、次なる野菜を探していた。
流石に僕は直火で焼かれたりされるのは得意じゃない。焼肉やBBQで存在を忘れられて真っ黒こげになったのを最後に発見されるタイプだ。火炙りが子供たちに好かれるとは到底思えない。
「シケた面が歩いてきたな」
「失敬だなニンジン」
同じく焼肉やBBQの黒焦げ仲間のニンジンが、ぐるぐる巻きのラップの向こう側からヤァと手を挙げていた。今日は下半分が使われていて、上半分だけしかないらしい。
「子供たちに食べて欲しくて、いろんな野菜に食べてもらうコツを聞いて回っているんだ。でもどの野菜にも悩みがあってなかなか難しい」
「お前にはお前の悩み、オレにはオレの悩みってわけだ」
「ニンジンにも悩みがあるのか?」
「もちろんあるさ」
飄々としたニンジンは、だが虚ろな瞳で閉じた冷蔵庫の野菜室の天井を見上げていた。確か今日もお母さんはニンジンを取り出して、10か月の妹ちゃん用の離乳食用に下拵えをしたはずだ。3歳のお兄ちゃんのハンバーグにも添えられたはず。思わず羨ましくニンジンの顔を覗き込む。
だがニンジンは相変わらず野菜室の天井を眺めたままだった。
「実は意外とふにゃっとした食感や、甘味自体が嫌だっていう子多いんだ。それでもお母さんは食べさせようとする。なにせオレは3本98円で安売りされることもあるから、ちょうどいい」
「どうやって食べさせようとするんだ?」
「すりおろし、みじん切り、フードプロセッサー……最終的にはハンバーグやミートソースに入れられて、オレとは分からない状態で子供たちのお皿の上さ」
それでも食べてもらえるんならいいじゃないかと言いたくなったが、僕は言葉をぐっとこらえた。それほど半分のニンジンはやるせなさを抱えていた。
「それで子供たちは嬉しそうに『ニンジン入ってないねー』って美味しそうに食べるわけ」
「あー」
「ここはどこ、私は誰状態ですよ」
『シケた面』はもしかしたら、僕の緑の体に映ったニンジン本人のことを言っていたのかもしれない。
今日切り取られたニンジンの下半身は一体どんな料理になったんだろう。できればグラッセにでもしてもらっていたらいいなぁと思いながら、僕はニンジンに別れを告げた。