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『緑の野菜なんて色で逃げられるのがオチさ』
ほうれん草の残した言葉が、僕の胸には深く突き刺さっていた。
確かに僕ピーマンはその濃い緑色を見られただけで、どんなに小さく刻まれていても3歳のお兄ちゃんには箸でつまみ出されてしまう。お箸の使い方が上手になったと褒めたところで何の効果も無い。
「んで私のところへ来たってワケ?」
「あなたなら色で毛嫌いはされないだろうから」
「色だけならね。でもこう見えてトマトって案外過酷なのよ」
ツヤツヤの豊満な体。トマトは一段高いところに保管されていた。柔らかいから潰れないようにするためだと思う。
「しかしトマトは苦くもないし色もいい、どう考えても離乳食勝者では?」
僕の中での子供に食べてもらえる野菜トップ3は、トマト・カボチャ・バナナだ。バナナを野菜に含むかどうか、異論は認めるとしても甘いし見た目もいい。
ところがトマトはアンニュイそうにない首を横に振る。
「お尻を十字に切られて、ヘタにフォークぶっ刺されながら、火あぶりにされる覚悟はあって?」
「火? むしろピーマンに生食は不向きだ」
「違うわ、食べ方いかんにかかわらず直火よ。あるいはぐらぐらに茹ったお湯。しかもそのあと氷水にぶち込まれるの」
これが日常だとばかりにトマトは言うが、にわかには信じられなかった。だって火炙りに釜茹でに水責めだ。そんな処刑じみたことが、どうして一介の野菜に対して行われる?
あり得ない。トマトが単に僕を脅そうとしているのだと思ったが、ちょうど隣にいたミニトマトがケタケタと笑った。
「トマト姉さんは、皮ァひん剥かれるんですよ」
「私の皮って消化されづらいのよねぇ」
真っ赤な頬をさらに赤く染めたトマトの艶やかな体を覗き込む。僕の緑を反射するほどツルリとした皮がぴんと張り詰めていた。なるほどシメジと同じ理由だが、取り除けるのならば取り除くのが人間だ。
「でも私は食べてもらうためなら火責め、水責め何のその。貴方にその覚悟はあるのかしら」
僕は咄嗟に返事が出来なかった。
だってトマトは赤い体をさらに赤くして、責め立てられること自体を楽しんでいるような気がしたので。むやみに肯定すると変な仲間にされそうだった。