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「ということでシメジ、君の話を聞かせて欲しい」
どうやって僕ピーマンを子供たちに食べてもらうのか、参考に話を聞くにしても人気者のリンゴやバナナに直行するのは気が引ける。ならば手っ取り早く、同じく冷蔵庫の野菜室の片隅に転がるシメジの顔を覗き込んだ。
「シイタケやマイタケよりも比較的安いし、エリンギよりも柔らかく、エノキより食べやすいキノコ代表選手じゃないか。僕としてはパプリカとの競合を勝ち抜きたいし」
「安くて悪かったわね」
一旦はフンっとそっぽを向いたシメジだったが、辛抱強く待っているとうーんと茶色の笠をひねった。
「そもそもシメジって、子供に食べてもらうのはピーマンよりも食べてもらえるようになるの後だからね?」
「そうなのか?」
「嚙み切りづらいらしいのよ。ピーマンは離乳食中期からぐらいでしょ? こっちは後期以降だから、食べてもらう機会で考えたらずっとピーマンの方が恵まれてんの」
茶色の笠をゆさゆさ揺れる。豊満な白い軸をこちらにぐいっと突き出したシメジは、どこか人間の女性のようにも見えた。シメジに雄雌はたぶんないと思うのだが。
「それは知らなかった。大変申し訳ない」
「構わないけど。それに食べてもらえる確率は、私の方が多いだろうし……でも」
「でも?」
うーんと、再びシメジの笠が唸る。
酷く悩ましいポーズをするので、思わず顔を逸らす。はてさて、シメジはこんな奴だったろうか。
ところが飛び出てきたのは、なまめかしいシメジとはかけ離れた単語だった。
「消化できずにお尻の穴に挟まったりするのよ。私のせいじゃないけど、もちろん赤ちゃんは大泣きさせちゃう」
「お尻の穴に、挟まる?!」
「お尻の穴から笠だけ飛び出して驚かせちゃうから申し訳ないのよね。上のお兄ちゃんが1歳半ぐらいの時、おむつ替えでお母さんをギョッとさせちゃったの」
想像するだに面白い恐ろしい光景に、僕は思わず頭を抱えた。
流石に僕は胃に入れさえしてくれれば、さほど消化を困らせることは無い。だが食べてもらえたとしても、お母さんの手を煩わせることもあるのだと知ったとき、なんだか少し世界が広がったようにも思えた。
赤ちゃんのお尻に生えたシメジ。お兄ちゃんが泣く原因を見つけたとき、お母さんは何を思ったのだろうか。
「あ、ありがとう。もう少し別の野菜にもあたってみるよ」
「がんばれー」
じゃあねと手を振ったシメジが、いつか妹ちゃんのお尻から笠だけ飛び出ないことを祈るばかりであった。