えっちっていわせたいだけ

 ゼルダが彼の名を呼びながら振り向いたとき、そこにリンクの姿はなかった。目を丸くして首をかしげて庭を見回すも、いない。

 先ほどまで庭先の池で一緒になって水しぶきを上げ、夏の日差しのもとで涼を楽しんでいたはず。ところが本当に気配なく、忽然と消えた。残っているのは、後で一緒に食べようと池に沈めて冷やしておいたヒンヤリメロンだけ。

 ゼルダはしばらくぽかんとして、それから苦笑した。

 彼がいなくなったことに気が付かないほど彼女を夢中にさせていたのは、小さなゴーゴーカエルだ。実はいま、両手の内に今年生まれたばかりの小さなカエルを隠し持っている。わずかにしっぽが残っているこの可愛らしいカエルを、彼の顔の前でぱっと手を開いて見せて驚かせようとしていたのだ。ところがその相手がいない。

 緩く結んだワンピースの裾から伸びる素足で、伸びた草を慎重に左右にかき分けながら家へと向かった。強い日差しが揺れる水面に反射して、麦わら帽子の下にきらきらと影を作る。

 手の内側でカエルがぴょこぴょこ動き回るたびに、ゼルダは湧き上がる笑みを堪える。百年の昔にゴーゴーカエルを見せた時、鉄面皮はわずかに引いて、困惑気味に首を横に振っていた。感情が豊かになった今の彼は一体どんな顔を見せてくれるかしらと、緩む頬に堪えきれず、唇を軽く噛んで扉を開ける。

 そこで、服を脱いでいる彼を見つけた。

 すでに濡れたズボンを脱ぎ去って、体に張り付く青いエビシャツをちょうどたくし上げ、ちょうど下穿きに手を突っ込んだところ。整然と並ぶ腹筋の隆起に伝う雫と肌に残る傷跡が、差し込んだ陽の光にあらわになる。腰骨の粗野な曲線まで浮き彫りになっていた。

 ゼルダはそんなリンクを見て、リンクもまた覗き見たゼルダを見つめていた。はたはたと滴る水の音と、瞬きが数度続く。

 まるで彫像か何かのように互いに見つめ合うことしばし。

 ちょっとだけ眉根をひそめ、リンクの方が先に口を開いた。

「えっち」

 短い言葉にじわじわと耳の先まで真っ赤にして、肩口に切りそろえたゼルダの髪が仔猫みたいに逆立った。慌てて戸を閉じて視界の外に彼を追い出す。

 でも扉にもたれかかって気が付いた。

 濡れたワンピースがぴったりと体に張り付いて、自分の形がすっかり透けて見えていた。

 

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