混じりけのない熱

 ゲルド地方の旅から帰宅して、すぐに家に入ろうとするゼルダを戸口で呼び止めた。

「軽く叩いた方がいいよ」

「服を?」

「叩けば分かります」

 自分でも分かるぐらい、敬語とそうじゃない言葉がまだぐちゃぐちゃに入り混じる。少しずつ直していかなければと思いつつ表情を崩しながら服を叩くと、パラパラと音を立てて砂粒が落ちた。やっぱりなぁと呟く俺の脇で、彼女は目を丸くしている。

 白っぽい乾いた砂はもちろんゲルド砂漠の物で、ここはハテノ村の端っこの自宅前。西の果てから東の果てまで、よくまぁ付いてきたものだと感心してしまう。まるで馬宿のハイリア犬の毛のよう。

「この分だと他にもたくさん砂粒が残っていそうですね……」

「すぐにお風呂にしよう。準備してくるから、中で荷ほどきして待ってて」

 時刻は正午と夕方の間ぐらい。本当は小腹が空いていたのだけれど、おやつよりもお風呂の方が先の方がよさそうだった。旅の汚れを落としてから何食べようかなと考え事をしながら家の裏手へ向かう。

 改築するときに新しく掘った井戸から水を揚げ、木のといに流し込んで浴槽を満たしていく。あとは薪に火を入れて湯加減がちょうどよくなるまで火の番をすればいい。

 ゼルダをお嫁さんにもらうにあたって、インパから言われたのはとにかく不自由のない暮らしを約束しろと言うことだった。当たり前だと即答してから、でもハッとした。彼女にとっての不自由ない暮らしって、もしかしてとてもハードルが高いのでは?と。

「この程度で許してくれるうちの奥様は優しいよね、ほんとにさ」

 誰に向けてでもなく独り言ちながら、くべた薪に火をつけた。

 百年前の王侯貴族の暮らしをわずかにでも思い出していたので、「いやいやあんな暮らしは無理だ」と最初は焦った。でも少なくとも衣食住、この三つは絶対に死守しなければと思って、住に関してサクラダさんに相談しに行くと改築自体は快諾してくれた。

 ところが材料とルピーをありったけ積んでもやはりお風呂、しかも湯船があるお風呂には難しい顔をされた。カカリコ村でもお風呂は蒸し風呂で、温泉でもない限り、ハイリア人はあまりお風呂に入る習慣はない。数日に一回、温かいお湯を張った桶で体を拭うのがせいぜい。しかしながら当時まだ長かったゼルダの髪を考えると、どうしてもお風呂は必要だったので、サクラダさんを拝み倒して作ってもらった。

 薪を燃やした熱を金属製の湯船の底に伝わせて、水を沸かす形式のお風呂。たぶんハイラルの中どこ探しても、まだうちにしかないと思う

「ただなぁ、井戸から水を揚げるのだけが大変なんだよな。そのうちどっかから水引けるといいんだけど」

 タルホ池から揚水する方法を考えながら薪を放りこみ、火吹き竹で息を送り込む。おおよそ沸いたかなというところでいったん家の中に戻った。

 ゼルダは荷物を開いて、プルアさんやご近所さんへのお土産を広げたり、食べ残したパンを台所へ、洗濯物はもう諦めたのか洗濯籠へ放り込んでいるところだった。不自由ない生活を約束した割に、なんだか所帯じみたことをさせてしまって申し訳ない気持ちが時々あぶくのように湧き上がる。

 ところが彼女は微塵も気にした様子なく、小瓶を片手にニコニコしていた。

「リンクこれ、せっかくだから入れましょう、バスオイル」

「ルージュがおすすめしてくれたやつ?」

 小瓶に入った黄金色の液体を嬉しそうに見せてくるので、曖昧に笑っておいた。なぜなら俺には、イマイチ効能がよく分かってないものだったので。

 ルージュ曰く、お風呂に入れるといい香りがしてリラックスができて、お肌にも良いものらしい。水が少ない土地に住むゲルド族ならではの知恵なのかもしれないが、お風呂の文化が薄いハイリア人にはウケないだろうなぁと思って買ってきたのは一つだけ。香りは奥様のご所望どおり、ゴーゴースミレとポカポカハーブのブレンドだった。

「ふふふ、楽しみです」

「百年前はこういうのはあったんですか?」

「ウルボザに頂いたことがありますが、常には使っていませんでした。どちらかと言えば湯上がりに香油を塗ったりする方が主流でしたね」

 よく分からないけど、女性の身だしなみも潮流などというものがあるのかもしれない。今はパーヤに教わった通り椿油を塗り込めている彼女の髪も、もしかしたら別のお手入れの方法があるのかも。

 もしそういうのがあるのなら知りたいなぁと思いながら、肩から少し伸びた髪を揺らす彼女の背を押した。

「じゃあお風呂いってらっしゃい。俺はもう少し薪くべてくる」

 お風呂上りに何食べようかなぁなんて考え事をしながら、太い薪を入れた頃。お風呂場の扉が開いて中に人が入る気配がする。ゼルダはお風呂でよく鼻歌を歌うので、今日は何の曲かなと楽しみにしていた。

 その直後、短い悲鳴が上がった。

「ひぁっ!」

 立ち上がって小さく開けた突き出し窓から思わず中を覗こうとして、いやいやさすがに奥さんと言えども許しなくお風呂は覗いちゃダメでしょ、と慌てて顔をそむけた。でもゼルダが悲鳴を上げたということは、おおかたアレが出たんだろうなぁと思って声をかける。

「また蜘蛛スタルチュラ出た?」

 背中に髑髏の模様を背負った蜘蛛スタルチュラ。あんまり見かけないけれど、小さいのは探せば実はいた。

 流石に家の中に入ってくるサイズなので手のひらよりも小さくほとんど害もないが、それでも立派な髑髏模様がしっかりと睨んでくる。きっと長期間、家を空けている間に入ってきたのだろう。

「いっいえ、これぐらい、自分で何とかしなければ!」

 立ち向かおうとする声が聞こえたけれど、あまりの必死さに恐らく敗戦濃厚。

 我が家の奥様はこの点が実に不思議で、カエルは好き、バッタも大丈夫、ところが蜘蛛スタルチュラだけは駄目らしい。どうして駄目なのか聞いたら、足が6本じゃなくて八本だからだとか。オクタも足八本なんだけど、あっちはいいのにどうしてこっちは駄目なのか、その差はよく分からない。

「待ってて、取りに行きます」

「だっだいじょうぶですってばっ!」

 太い薪に火が付いたのを確認し、あとはもうしばらく放置しても大丈夫だろうと窯の蓋を閉め、家の中に入る。

 一つだけ、改築の時に失敗したなぁと思ったのは、お風呂場へ入る扉を家の中にしか作らなかったことだ。外からも入れるように扉をつけておけば、自分一人で薪をくべて沸かし返しながらお風呂に入ることができる。それに今みたいに何かあった時、わざわざ家の中から回り込まなくて済む。

 サクラダさんが「家は三回建てないと理想には届かないワ」と言ったときには「まさか」と思ったけれど、今となっては確かに言う通りだと納得していた。水回りとか建具の使い勝手とか、またいつかルピーを貯めたら改築したい。

 例えば子供部屋が必要になったら……、なんてぼんやり考え事をしながらお風呂場の扉に手を掛けた。

「開けるよー」

「え、えいっ」

 ばしゃっと。

 えらく気合の入った掛け声とともに、温かいお湯を頭から浴びせられた。なんでーと思いながら口に入ったお湯を吐き出す。

「ぶえっ」

「あああっごめんなさい!」

 ゼルダは片手に手桶を持って、必死の形相で小さな蜘蛛スタルチュラに立ち向かっていた。どうやらお湯を勢いよく掛け流して排水溝に流し込もうとしたらしい。

 ところが蜘蛛スタルチュラがくっ付いていたのは扉の上。前触れなく扉を開けた俺は、たっぷり手桶一杯分のお湯をぶっかけられたわけだ。

「ひぁっ、やっぱり無理ですぅっっっっ!」

「だから待っててーって言ったのに」

 お湯の滴る前髪をかき上げ、縋り付く彼女を宥めながら、木の壁を走り始めた蜘蛛スタルチュラに手を伸ばす。片手サイズだから本当につまんで潰すだけだった。ぷちっとやってから、残骸は窓の外へぽいっと放り投げておく。

「落ち着いて、もう大丈夫だから」

「ごめんなさい、自分でどうにかしようと思ったんですけれど……」

 それぐらい怖がってくれた方が、俺としては可愛いからいいんだけど……とは言わないでおいた。頑張って色んなものに慣れようとしていたのは知っているので。

 でも実際、カエルは問答無用で鷲掴みにするのに、蜘蛛スタルチュラだけは駄目というギャップが可愛いとひそかに思って見ている。できれば慣れないでいつまでも縋って欲しいなんて、俺の我儘かもしれないけれど。

 さて、濡れた服は洗濯籠に放り込む前に少し乾かした方がよさそうだ。軽く裾を絞って火の番に戻るかと後ろを向いたところへ、ゼルダの白い指が伸びてシャツを掴んだ。あれ?っと思ったときにはもはや遅く、そのまますぽんと脱がされてしまう。

「私のせいでリンクびしょびしょですし、一緒にお風呂入りましょ」

「え」

「それに窯を離れてこっちに来たってことは、もう火加減は大丈夫なんでしょう?」

「それは、大丈夫だけど……」

 さすがにグローブや胸当ては外していたが、それでもまだ旅装のままの格好だ。それをゼルダは手際よく、ベルトを引っこ抜いてズボンも何もかも全部脱がせて、最後に髪留めまで全部抜き取ってしまう。

 ちょっと、それは、いいんでしょうかと、おどおどしているうちにかけ湯までされて、えいと背中を押された。

「ほら早く入ってください」

「えっ、ええ……」

 すでに夫婦になってからしばらく経つ。お互いの裸はそれなりに見ているのだから恥ずかしいことなんてない。

 無いはずなんだけれど、一緒にお風呂に入るのはさすがに初めてだった。

 湯船がさほど大きくないせいもある。が、それよりなにより、ゼルダの姿があまりにも目の毒すぎるから。

 ところがあれよあれよという間に、熱された湯船の底に触れないためのすのこを踏み沈めながらお湯に浸かる。それどころか彼女は、当然のように俺の足の間に収まろうとするので、慌てて浴槽の縁に体も足もぴったりくっつけて逃げた。二人分の体積でザバーっと音を立ててお湯が流れるのを、鈴を転がすように笑っているので、どうやら何も気に留めていないらしい。

「ふふふ、温泉みたいですね」

「え、あ。うん……」

 たぶん以前連れて行ったヘブラにあるクムの秘湯のことを思い出しているんだと思うが、今はそれどころじゃなくて生返事しかできない。こんなの、ぬるま湯だってのぼせてしまう。どうやって切り上げてお風呂から出ようか考えているうちに、彼女の手がまたしても俺の体に伸びた。

 浴槽の縁に逃がしておいた腕を取り、あろうことか抱え込んで湯船に引っ張り込もうとする。

「肩までつからないと、ちゃんと温まりませんよ」

「う、ん……」

 本当に。本当にゼルダは鈍いというか無防備というか無自覚というか。どうしようと打開策を考えようとするたびに、じわじわと股の間に熱が集まっていく。

 それが不意にきゅっと持ち上がった。意図せずして動いた俺の息子は、先端を彼女の柔らかい腰にこすりつけながら上を向く。

 ひっと息を飲む俺を尻目に、ゼルダは首を傾げて後ろを伺おうとした。

「だ、だめ! ちょっと、こっち見ないでっ……」

 慌てて両肩を掴んで前を向かせた。

 こんな真っ昼間から、こんなの見せるわけにはいかない。なんとなれば今夜はいくらでも時間があるのだし、疲れているだろうから出来ることならこれ以上消耗することもしたくないとさえ思っているのに。

 ところが俺の予想を遥かに上回る調子で、股座のあいつがむくむくと大きくなっていく。

「リンク?」

「えっと、あの、ほんとごめんなさい……収まるまで、ちょっとまって……」

 どうして自分の体の一部が意思に反してこんなに動くのか。それなりに長いこと男をやっているのだが、その点だけは不可解だった。動かないで欲しいと思うほどにひょっこりと動いて、おさまりが付かなくなっていく。

「えっと。もしかして、元気になって、しまいました?」

「……ゼルダが一緒にお風呂に入るなんて言うから、ですよ……もう」

 湯船に顔を半分沈めて、ぶくぶくと泡を立てた。そんなことしたってしょうがないのに。

 しかしゼルダはくすっと笑ったかと思うと湯船の中で体を後ろへ滑らせ、やおら立ち上がった俺の分身の気配を背中で捕らえにくる。浴槽は二人で入るには少し小さくて、逃げ場を失くした俺の息子は、自分の腹とゼルダの柔らかいお尻の間に挟まれた。

「まぁ、ほんとです……」

「ちょっとォ!」

 抗議も虚しく、彼女は前を向いたままゆっくりと後ろに手を伸ばしてきた。ここまでくると誘われているとしか思えない。細指がゆわりと水面下で動くのを、もう黙って見ているしかなかった。

 後ろに回した手が固くなりつつある俺の竿を探り当てると、面白そうにお湯の中でゆっくりとしごく。久々の刺激に、背筋にぞくぞくと刺激が走った。

「うあっ……」

「もうこんなに?」

 くすくす笑うのが悔しくて、もういいやと彼女の体を後ろから抱きしめた。

 およそ二週間あまりの旅だったけれど、その間は必要以上には触れることが出来なかった。溜まっているどころの騒ぎじゃないのを分かっていて、彼女も俺に触っている。だったら俺が触っても怒られる筋合いじゃないや、と。

 腕の中にフワフワの柔らかい人がすっぽりと収まる。お湯の中で、いつもとは違う感触に、ゼルダはくすぐったそうに身をよじった。その肩までの短い髪を顔でかき分けて、唇で首筋に触れる。すごく安心した。

「ちょっぴり疲れたからかも」

「久々に女装もしましたもんね」

「もうそれ言わないで……」

 ゆるゆると撫でられる息子が気持ちいいのをごまかすように、しっとりと濡れた首筋に軽く歯を立てて生え際まで舐めてみる。ほんのりまだ汗の味がした。

 右手でまろやかな胸のふくらみを押し上げながら、脇腹、臍、太ももの内側をなぞって一番柔らかいところに触れる。途端に鼻から抜けるような甘い声を出して、ゼルダの体がピクリと震えた。

「んんっ……」

「始めたのはゼルダですよ」

「やっ……はっい、あぁ………」

 囲い込んだ腕の中で体を傾けて、蕩け始めた彼女の顔をこちらへ向かせた。先ほどまでの余裕はどこへやら、甘い吐息がほろほろと口から零れ落ちる。しっとり濡れた唇にむしゃぶりついて、わざと音を立ててじゅるじゅると吸うと瞳が蒸気に潤んだ。

「ぁん……やっ、………んっ………」

 胸の飾りを摘まんで転がして、もう片方の手で押し開いた襞の内側で小さな芽を押す。お湯の中でも分かるぐらいとろりとしたものが溢れて指に絡みつくのを感じ、指を沈めるとすでに中はとろとろだった。待ちきれなかったのは俺だけじゃなかったみたい。

 ゆっくりと指を抜き差ししながら唇を食み、薄く開いた隙間に舌を滑り込ませる。小さな舌を絡めとり、歯列から頬の柔らかさまで、口の中を入念に味わうと俺をさする手にも力が入った。

「かわい……俺の奥さん、かわいい」

「やぁっんッ……ふぁ……りんく……」

 翡翠色の瞳が少し文句を言いたそうにむくれていたので、応えるように胎の内側、少しざらつくところをゆっくりとノックしてあげた。好きな場所だと分かっていて、とりわけゆっくりと指を折って優しく撫でる。案の定よがる体をよじって、上気した肩が水面から飛び出した。

 その肩はもちろん、頬や胸も、ほんのり色づいて食べごろの果実みたいに見えた。ぽってりと熟れた色合いは決してお湯のせいばかりではない。滴る雫すら美味しそうに見えてぱくりと肩に食いついく。俺はそう、お腹が空いていたんだった。

「ッ! ぁ、だめ、……まだ、あっ洗ってなっ……ぅん、あ………」

「あ、そっか」

 ちゅぽっと指を抜いた衝動で跳ねた体を抱き上げて、浴槽の外へ、洗い場に出る。俺のいきなりの動きにゼルダがびっくりして、少し目の覚めた様子で息を整えている間に石鹸に手を伸ばした。

 だって、洗ってないから食べちゃダメって言われたら、洗いたくなるに決まってるじゃないか。

「洗ったら、食べていいんでしょ」

「リンクッ……っも、ひぁッ……」

 ふわふわでとろけそうな体に濡れた石鹸を滑らせると、ふわっと花の香りが舞い上がる。

 プルアさんとゼルダが一緒になって作った香り付きの石鹸だった。今じゃハテノ村の奥様方はみんな持っている人気の商品。こんな風に使っていると分かったら、プルアさんには怒られるかもしれないけど気にしない。

 手のひらで泡を集めて滑らせて、ふっくらとした胸をくるくると弄ぶ。上を向いた頂点が本当に美味しそうだったのだけれど、泡だらけじゃ食べられないなぁと思って桃色の頬を舐めた。

「んもぅ……」

「俺のことも洗って」

 つんと怒った唇をふさぐと、ゼルダは少し口角を上げて、ひたりと俺に体を寄せてくれた。泡立つ彼女の体が俺の硬い皮膚の上をなめらかに滑り始める。

 互いの背に腕を回して、隙間から湧き立つ泡を塗り付けて。固くなったままのゼルダの胸の頂点が、こりこりと俺の胸に当たった。だから俺も誇張して反り返る竿をゼルダのお腹に当てこする。

 もともと背格好は似ていたけれど、こうして改めて見ると何もかもが違った。どうしてこの人はこんなに柔らかくてまろいのだろう。

 俺の体と擦れあったら傷でも付いてしまいそうなのに、彼女の安心しきった体がコトコト忙しい心臓の音を押し付けてくる。それがすごく嬉しい。だからバレバレの俺のうるさい拍動も彼女に押し付け返した。本当はこうして触れているだけで幸せなんだけど、でも体は素直でもっと欲しいと奥へと手を伸ばそうとする。

「あわあわ気持ちいい」

「洗ってることになりますか、これ?」

「砂粒は取れるかと」

 お風呂ってこんなに気持ちよかったっけと首を傾げたくなるぐらい、摩擦の無くなった肌は互いにぴったりとくっ付いた。ぬめりながら白い泡がぬちゃぬちゃと音を立てる。

 その泡を指先ですくって、背中はもちろんお尻の割れ目にまで指を伸ばし、洗う振りをして大好きな白いふくらみに指を沈めた。お返しとばかりにゼルダの指は、俺の傷の一つ一つを丹念になぞる。

 我慢の糸がどんどん擦り切れて、太ももで彼女の股を割り開く。でも体はぴったりくっつけたまま、ゆらゆらと腰を揺らす淫靡なゼルダの鼻先に口づけをした。

「ぁんっ……顔に泡ついてますよ、リンク」

「んー」

 泡まで食べられたらいいのになぁと思ったけど、あまりおいしくないのは知っていた。仕方がないのでお湯で流す。次は泡まで美味しい石鹸作ってくれないだろうか。

 全部泡を流し終え、もう食べていいかなぁと満を持して振り向く。ところが彼女はいたずらな笑みを浮かべていた。

 今度は俺に、浴槽の縁に座るようにと指図する。

「まだなの?」

「まだです」

「まだ洗うの?」

 頭は後で洗おうよと言いかけた途端、ゼルダは洗い場に膝をついて剛直に手を伸ばした。

「ここも洗わないと」

 言うや否や、先端をぱくっと咥える。熱い口に含まれて、思わず腰が跳ねた。

「ふぁ……ッ」

 それはとんでもなく煽情的な光景だった。

 俺の脈打つ赤黒い竿に、ゼルダの白い指が掛かる。まるで子供でもあやすかのように優しく撫でてくるが、でもあやされてるのじゃなくて、たぶん煽られてる。

 可愛い舌がいたずらに先端を突くので、俺はなすすべなく涎を垂らした。すると彼女は形の良い唇で滴るものを舐め取り、ちゅるちゅると音を立ててすする。

「これは、洗うっと、はっ……言わない……ふっ」

「じゃあやめてもいいんですか?」

「やっ……お願い、します……」

 かすかに空いた窓の隙間から午後の柔らかい日が差し込んで、俺の股の間に彼女の濡れた髪が反射していた。指を伸ばし、うっとりと髪を撫でる。

 すると目を細めて彼女は俺を見上げていた。その細い喉を、俺の先っぽから溢れたものと彼女の唾液の混じったものが伝い落ちて行った。

「さっき……ッん、洗ったばっかり、なのに」

「じゃあまた洗って」

「はっ……ぅ」

 元はと言えば手の届かない高嶺の花だった姫が、うっそりとほほ笑んで俺の一物を咥えて味わっている。それを思うだけで自然と息が上がった。

 でもこのまま出してしまうのは嫌だった。どうして久々に触れ合えるのに彼女の中以外で果てる選択肢があろうか。絶対的に気持ちいいのは彼女の中なのだ。

 張り詰めていく己を無理やり彼女の口から引き抜いて、冷えた体を抱き上げる。

「ゼルダ、乗ってっ」

 今度は向きあう形で抱え込むとまた湯船に沈んで、湯船の中で屹立したそれの上に彼女の体を座らせた。くぷくぷと俺を飲み込んで、腹の上に座った女神は一声「あぁ」と喘いだ。

 目の前で揺れる形の良い胸に顔を埋めると、頭を幼子みたいに撫でてくれる。でも慈母みたいな微笑みとは裏腹に、彼女の腰はゆっくりとだが確実にうねっていた。水の抵抗に阻まれながらもどかしそうに体をゆすって、自分の中に収めた俺の剣をぎゅうぎゅうと締め上げる。

「あっ…んっ………ふぁ…ぁあ」

「そこが気持ちいいの?」

 明言が無くとも雄弁に語る潤んだ瞳に、下から腰を擦り上げる。一層強く襞が絡みついて、肩にすがる指にも力が入る。

「あぁっ、…やっやっだ、めぁ………ッ!」

 ぐりぐりと何度も下から擦り上げて、ゼルダが切なく淫らに崩れた表情で頭を振るのを見ていた。ある意味狭くて良かったと感謝しながら浴槽の壁に足を突っ張り、飛沫を上げて胸を揺らす肢体を見上げる。

 なんて良い眺めなんだろう。彼女の頬を濡らすのが涙だか汗だかお湯だか分からない。

「やっ、りんく、だめっ……あっああっ…」

 せり上がっていく息を吸い込むように何度も口を啄み、溢れる唾液をいやらしく音を立てて舐めた。胸の蕾をこねて潰して、ぐつぐつに煮えたぎる下半身を突き上げる。いつもベッドの上で聞くのとは違うさっぱりした水音が新鮮で思わず笑みが漏れた。まさかこんなにも乱れる姿を、お風呂で見られるとは思ってもみなかった。

 でもやはり湯船の中では水の抵抗が大きくて、今一歩のところで物足りない。

 十分に気持ちいいし、たぶんこのまま揺さぶっていれば延々と達さないまま、ゼルダが淫靡に濡れるところを見ていられる。それはとてもとても魅力的ではあったのだけれど。

「ごめん、立って壁に手をついてもらってもいい?」

 のぼせるか湯が冷める前にはどうにかしなきゃと、ゼルダの体を浮かせて中から破裂寸前の強ばりを引き抜く。熱に浮かされて少し上の空になっている彼女を、くるりと後ろへ向けて砕けそうになっている腰を掴んだ。割れ口にまだ熱い猛りを当てて、お湯の滴る秘所に一気に押し込む。

 今までと逆の反り返りに困惑する膣壁が、今度こそねばつく音を立てて俺を飲み込んだ。

「あっああぁぁぁっ、いやぁ」

「後ろ、すごい締まるッ……」

 傷一つない真っ白な背中に舌を這わせて、ぎりぎりまで引き抜く。柔らかな襞が追いかけてくる間に前に手を伸ばして陰核も擦り上げれば、くぐもった声がよじれて「もっと」と耳に突き刺さった。本当はそんなことは言っていない、俺の耳にそう聞こえるだけ。

 ならばと引き抜きかけの深々と奥まで剣を突き刺す。大きく何度も抜き差しして奥を叩けば、そのたびに言葉にならない嬌声を上げてゼルダの体は跳ねた。

 振り乱した髪の先からぽたぽたと雫が垂れて、腰を打ち付けるたびに飛沫が飛ぶ。激しく突き上げれば突き上げるほど、繋がった部分からあふれ出した蜜が粟立って、洗ったばかりの太ももをねっとりと汚した。

 この人はどこまで俺を煽るんだろうと、本当に呆れるぐらい可愛らしい。

「ひぁっ…あっあっだめ、だめぇ…ッりん、く……いっちゃあっ!」

「俺も……も、出る………んっ」

 もはや自分でも止められない律動を送り込み、後ろから覆いかぶさるように抱きしめる。声にならない叫びを聞きながら、彼女の一番奥に俺は久しぶりに熱を吐き出した。

 はぁはぁと湿度の高い空気を息苦しく吸い込みながら呼吸をする。

 ところが、ぐぅーっとお腹が鳴って、そういえば小腹が減っていたんだったなと思い出した。はーっと大きく息を吐き出して、彼女の耳元で囁く。

「いいお湯でした?」

「んもうっ……お腹空いたん、ですか?」

「うん、お腹もすいた……」

 二人して苦笑いして、もう一度体を洗い直す。これ以上は出来るだけ触れないように、気を付けながらお風呂に浸かって温まってから出た。風呂上り、本当はフレッシュミルクが飲みたいところだったけど、もちろん買い置きはない。とりあえず白湯でも飲もうかとリビングに向かった。

 ところがリビングのテーブルの上の物を見てぱちくりとする。一拍おいてから笑いがこみ上げた。

 あれほど楽しみにしていたはずのバスオイルが、封も開けずに鎮座していた。

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