ゲームオーバー - 2/3

 

 体調を崩した原因は私の体力の無さにあるのは明白であった。しかしながらプルアは、リンクの方が問題だと少し怒っていた。

「姫様もちゃんと断る勇気を持つのヨ!」

 そう言われて、ただただ苦笑を返す。断るのが確かに心苦しいというのもあるが、あながちリンクのせいだけではない気がしてこっそり舌を出した。

 でも、だったら私の方が体力をつけるしかない。熱が下がったら運動を始めようかなと、すりおろしてもらったりんごを食べながら考える。さすがにリンクほどとは言わないが、研究所との往復以外にも何か体を動かそうかしら。

 それに最近、リンクが作ってくれるご飯が美味しいので、お腹とお尻周りも危うくなり始めている。運動それ自体は悪いことではないはず。

 ところが私の考えをよそに、風邪が治った後のリンクはなんだか様子がおかしかった。気もそぞろ、上の空、なんだかふわふわとして落ち着きがない。

 その原因が、夜になって明かされ、私は目が点になった。

「これを、プルアさんに渡されて、どうにかしろと言われまして」

「間違いなくプルアがそう言ったのですね?」

「はい、あとは自分でがんばれと」

 彼が素直な人で良かったと心の底から安堵する。

 カバーを外した本のタイトルは『射精管理の方法』。

 もし一人で見つけてしまっていたら、心に巻き起こるうねりをどう抑えて良いか分からずに動揺したに違いない。なるほど、リンクの様子がおかしかった原因はこれですか。そうですね、これはなかなかの攻撃力の高いタイトルです。

 原因を暴露しても彼はおどおどと弁明をする。なかなか見られないリンクの動揺に、少々見ものだと思ったり、思わなかったり。

 ……いいえ、何を考えているんでしょう。彼は真面目に私との生活について頭を悩ませてくれているのですから、迎え撃つ私も真面目にせねばなりません。

「俺が、その、何度もしたがるから……ゼルダの体が悲鳴を上げてしまうって、だからどうにかしろと、そういう意味だとは思うのですが、あの、これはその」

「ええ、つまり私との共同作業ということになりますね……」

 数ページ読んでみて理解した。

 これはリンクが自分で自分の性欲をどうにかするという類の代物ではない。私がリンクに対して、性欲の管理者として権限を振るうものだ。

 簡単に言えば、射精しない期間を決め、約束を守れた時のご褒美を決め、さらには約束を破った場合のペナルティも決めておく。ちなみにしないと決めたら、二人ではもちろん、一人で抜くのも無しとのこと。

 その際、触れることはもちろん、立ち上がることすら不可能にするための器具を利用する場合もあるようなのだが、残念ながらこのような興味深い器具はこのハテノ村では手に入らないだろう。ええ、誠に残念ながら。

「プルアさん、どうしてこんなものを」

「あのプルアのことです。深い意味があるのかもしれません」

 何しろ今はあんな可愛らしい姿になっているが、百年前はあれでいてそれなりにモテていたのだ。そのプルアがやれと言うのだから、やはり何らかの効果があるに違いない。

 その意味や効果とやらがどこにあるのか分からず、絡めばむず痒くなる視線をどうにかそらし、二人で少しずつ読み進めていく。夜のリビングはしんと静まり返り、残念ながら目を向けるべき先が本以外にない。

「どうやら我慢した分だけ気持ちよくなれると、そのような趣旨のことが書いてありますね」

「つまり、回数を減らす代わりに、一回の精度を上げろと?」

「そうです、これこそがプルアがこれを渡してきた本当の意味ではないでしょうか」

 かくして、私とリンクは本の通りに決め事を作った。

 まずは練習として我慢する期間は五日間、ご褒美は一晩好きなだけ私を抱くこととした。ご褒美は食べ物ではないらしい。五日後は一晩寝られなさそうなので、前日はちゃんと寝て起きましょうとひっそり心に決める。

 ただ、ペナルティを考えるのが難しかった。

 大抵のことはリンクにとっては苦にならない。本に書いてあるような「一時間ランニングする」や「嫌いなものを食べる」は、彼にとってペナルティにならない。かといって管理者が「鞭をうつ」や「蝋燭を垂らす」ようなことは、痛々しくて私には難しい。

「でも辛いことじゃないとペナルティになりません……」

「俺にとって辛いのは、ゼルダに無視されることですが」

「それって私にとってもペナルティじゃないですか」

 でも他に選択の余地がなく、結局ペナルティは一日私が口をきかずに無視することとなった。リンクは「互いに辛くならないように頑張ります」と言って項垂れるが、プルアの指示なのだから仕方がない。

 それに、これは一種の対処療法なのだから、と言い聞かせる。

 どうにかこの方法で急場しのぎをしている間に、私が体力をもっと付けなければいけないのだ。心を新たに、その日からまずは五日間、リンクの苦行が始まった。