不可知の獣 - 14/14

番外編・人、足らしめるもの

「それで、どんな夢だったんですか」

 くちゅくちゅと音を立てて胸の飾りを舐めて転がしながら上目遣いにしてみた。先ほどまでの余裕はどこへやら、ゼルダはすぐに「んぅ……」と甘い声ですぐに鳴き始める。かわいい。もっとかわいらしくしたい。

「んっ……内緒、です……あっぁ………」

「どうして内緒?」

「な、内緒だからっ内緒なんです、んんっ……」

 言いたくないらしい、となると逆に暴きたくなる。ゼルダは俺のこと、というよりも男の性を根本的にはき違えている。そんなあからさまな隠され方をしたら、好きな人のことなのだから何でも知りたくなるの決まっているのに。

 口を離して腕も外して、体も引いて真上から見下ろして。わざとらしく首を傾げて見せた。

「じゃあ止めましょうか」

「えぇっ……」

 途端に眉を八の字にして、悲しそうな顔をするのだから堪ったもんじゃない。俺も下半身はすでにはち切れそうになっていて、ここで止めたら事だ。それでも我慢して、意地悪すると反応がかわいいのでついやってしまう。

 悪い癖なんだけどこればかりは反応がかわいいので止められない。

「いじわる……」

「じゃあ教えてください」

 柔らかな足を持ち上げて、すでにたっぷりと蜜を纏った花芯に吸い付いた。ひゃんと跳ねる腰を掴んで、ゆっくりと舌でこねる。どれだけ飲み込んでも蜜が湧いてくる。でも昨晩、俺が中に吐き出した白い物も一緒に出てきて、そっちは少し苦いと思った。自分が出しておいてとは思うものの。

 下を責めている間なら答えられるかなと思ったが、ゼルダは腰をうずうずとさせて好い声で喘ぐので少し顔を上げて様子をうかがう。白い指に手を伸ばして絡めると、涙でしっとりとした瞳がこちらを見ていた。

「ユニコーンのこと……夢で、思い出して、ただけです………んっ」

「ああ、あの乙女と狩人の」

 聞いてからもう一度、ゼルダの柔らかいところへ舌を差し込んだ。わざと音を立てながら入念に舐める。そこから這うように臍、わき腹、胸、と戻って来て、首筋から今度は耳を食んだ。ゼルダは耳も弱いから、舌でくすぐると真っ赤にするのが可愛らしい。

 握った手に力が入ってまた艶声が俺の耳をくすぐる。

「んっ……あぁん…………覚えて、いるのですか……?」

 戻った記憶の中にあるのかという意味合いと、そもそも他愛のない話を記憶しているのかという意味と、どちらの意味でも俺は覚えていた。

 当時は印象的な話だなと思ったし、あれのおかげでだいぶ振り回された記憶もある。一瞬、随分と辛い思いに苛まれもしたけれど、今となってはまぁ別にいいかと思えているのが幸い。

 だから耳元でわざと息を吹きかけるみたいにして「ええ」と答えた。

「覚えていますよ、ゼルダが乙女で、俺は狩人なんでしょう?」

 最初に言われた時はちょっと心外だなと思った。

 だって俺はひたすらに健気な姫君を守りたいと思っているだけ傍付きの騎士だったのに、目つきが鋭い程度のことで悪役を引き受けるなんてと思った。でも続きを聞けば、どうやら悪い意味で言っているわけではなさそうだったし、自分と違って学のある人の言うことだから、すぐにそういうものかと納得した。

 乙女と狩人とユニコーン。

「乙女、……ああ、そっか。乙女じゃないってそういう意味ですか」

「んやぁ………やめ、やめてっ…………あぁッ……」

 上気する肌以上に頬を赤らめて握っていた手が逃げていった。でも止めてというわりにはせがむように、ゼルダの指先が俺の背中の傷跡を撫でる。

 ユニコーンは乙女の膝で寝るのならば、確かにもうゼルダは乙女ではない。俺がもう何度も中に押し入って、ひも解いてしまって、すでに俺の形を覚えるほどになっている。昔の自分に知られたら殺されかねないのだが、悲しいことに、あるいは幸いなことにそういう輩はもういない。

 だから思う存分、口の中を犯しながら、蜜壺に指を差し込んで中をかき混ぜる。一緒に膨らんだ小さな蕾を擦り、こねていい様に刺激していくと、どんどんゼルダの息が切なくせりあがっていく。

「あ……、…ッぁあ、………ンッ、いやぁ……、ぁんぅぅ…………んぁっ!」

 肩を震わせて足の先までぴんと伸びた。長いまつ毛の先に涙を震わせながら、はあはあと吐息を漏らす。たまらずもう一度耳にかじりついた。

「……いえ、よく、考えたら…………あなたがユニコーン、だったと、思って」

「え、そっち……?」

 狩人ならばまだしも、俺は人間ですらないの?

 それもちょっとまた心外だなぁと思った。でも考えようによっては、たまにはそれも悪くないなと笑みが漏れる。

 そろそろ俺も我慢の限界だから、ゼルダの柔らかい体をひっくり返して四つん這いにさせた。

「リンク……?」

「獣だなんて言われたらこうしたくなります」

 白い綺麗な丸みが二つ。その丁度はざまに自分の反り立ったものを当てがって、するすると前後させた。挿れずにこうして自分のものをこすり付けるのは、一種の征服欲なのだと思う。それが後ろから見下ろしているのだから、さらにたまらない。

「んんっ」

「背中、綺麗」

 でも当然、いつまでもそれで満足などできるはずもなく、後ろから濡れそぼる秘所に入り込む。俺の形を覚えたゼルダの中は、いつもと違う方向からの反り返りを戸惑いながらも強くからめとった。

 咥え込む隙間から蜜が溢れてゼルダの太ももに流れていく。それがもったいなくて思わず指で掬い取ると、「ひゃぁっ」と腰が一瞬浮いてきつく締めあげられた。危ういその刺激に思わず腹に力が入る。はーっと奥から息を吐き出した。

「でも、どうして、俺がユニコーン?」

 奥まで全て突き刺してから、背を抱えてその綺麗な背にぴったりと自分の腹を寄せた。耳元で囁くだけ、まだ動かない。それなのにゼルダは随分と切ない吐息を吐いて、中を締め付ける。

「だって、私のこと……無条件に信じてくれて、たから………」

「ああ、信じていたのは、全部無条件ってわけではないけど……」

「違うん、ですか?!」

「んー……なんて言えばいいのかな」

 体を起こして緩やかな曲線の腰を抑えて、ゆっくりと抜き差しし始める。そのたびに朝の光の中に声が零れ、目の前の双丘がふるふると震えた。愛おしいそれを撫で、指を沈ませながら考える。

 好きな人の言うことを頭から否定するというのが、俺にはまず理解の出来ないことだった。それに上司でもあった人の言うことだから、むしろ他の騎士たちが悪しざまにいう理由が分からない。バレたら厳罰処分だろう。

 なによりも、信じてはいけないニオイはしなかった。

「そう、なんとなく、そう思ったから……?」

「んんあぅ………ッなん、ですか……それっ!……ンあぁっ」

「勘、です」

 口付けを求められたときはさすがにヤバイとは思った。けど触れて良いと許された時は嬉しかった。我を忘れるというのがどういうことか、あの時初めて知った。それぐらいにゼルダとの口付けは俺の中で大事なものだった。今はそれ以上に触れることを許されてはいるものの、やっぱり口付けは好き。

 後ろから突くたびに長い金の髪が背中で揺れて、ゼルダの喘ぐ声と胸のふくらみが揺れる。髪をかき分けて白い背に舌を這わせるとびくっとのけ反ったので、そのまま首筋に噛みついた。

「んやぁ……ぅぅあんっ!」

「ここもいいの?」

 後ろから犯しながら首筋を甘噛みして、ついでとばかりに揺れる双丘の片方を掬い上げた。次第に腕だけで支えられなくなるゼルダの体を抱えて、手前の浅いところを入念に擦る。

 こうして俺の体はゼルダを覚えていくし、ゼルダの中も俺のことを覚えていく。これはある意味、いつでも本番の反復練習だった。

「勘の大半は、反復による経験から察するもの、です……だって次に欲しいのはここでしょ?」

 言ってから右腕でぐいっとゼルダの上体を引き起こして最奥を突いた。ひゃぁとひときわ艶やかな声で体を震わせたので、たまらずに顎を掴んでこちらを向かせ、唇に噛みつく。

 下から突き上げながら彼女の口腔をねっとりまさぐると、またきゅうきゅうと俺のことを絞めつける。思った通り、素直な体の反応に思わず笑ってしまう。

「勘は、体が覚えているものです」

 剣を握るとき、次にどう動くのか頭で判断するよりも先に動けるのは、そのように動けと何度も体に教え込んだからだ。それが武芸の心得のない人からは、まるで未来を見て動いているように目に映るらしいというのは知っている。

 たぶんそれと同じ原理で、俺はどうやって刺激をしたらゼルダが喜んでくれるのか、頭で考えるよりも先に体が動く。特にギリギリまでいったら理性なんて吹っ飛んでるから、頭は「気持ちいい」「出そう」ぐらいしか考えてない。頭って意外と馬鹿だと思う。

 そのまま何度も突き上げ、奥をこつこつと叩いた。そのたびにかわいい声を上げるので、存分に欲が膨れ上がっていく。もっと気持ちよくさせたいし、もっとかわいいところを見せてほしい。

 でもこのままだとゼルダの顔が良く見えない。それはもったいないなと思って、繋がったまま体をくるりと反転させた。突然の動きにまたゼルダの身体が跳ねる。それを押さえつけるように覆いかぶさった。

「ねぇゼルダ。俺も、大概人間なんですよ……ッ」

 やっぱりイくときは顔が見たい。俺はちゃんと人間やれてるかなと、大好きな人の顔を見ながら上り詰めていく。

 ゼルダの中は気持ちがいい。でもそれ以上に、彼女が俺と気持ちよくなってくれるのが嬉しい。幸せそうに溶けてしまう彼女が見たい。だからこうして、いくらでも抱きたくなってしまう。

 などと言い訳をしながら思い切り腰を振る。

「んあぁ……ッあぁんッ……っん、りんくッ……ぅン、だめぇ………ん、あァッ……イっちゃう、ぁああっ………ッ」

「おれ、も、ぜるだッ……イくッ………んんッ!!」

 朝っぱらからあられもない声で呼び合い、互いの形を確かめながら俺たちは一つになる。白い喉をのけ反るのを見て、俺もゼルダの一番奥に欲を吐き出した。

 しばらく互いの息を整える音だけがあって、俺よりも先にゼルダの方が指先を伸ばす。体を寄せると彼女の柔らかい腕が俺の身体を抱き寄せて、小さく「好き」と言ってくれた。

「おれも、すき……愛してる」

 本当はもっとしていたい。でも終わりがあるからまた次があるんだと思って、俺はゼルダの中から緩んだ自分を引っ張り出す。入れたままだと、また元気になってしまって、それはそれで困るし。

 さすがに、朝からはアレだったかなと思いながら、気だるい腕でゼルダをもう一度抱き寄せた。こうして百年前も抱き寄せた記憶はあったが、あのときはもっと必死だった。今こうして比較的気楽に、好きな人を好きなだけ腕の中で独り占めにできる。何て幸せなことか。

 でもふと、あの寒い天幕の最中でのことを思い出して、眉をひそめた。確か俺はゼルダに目とか耳とか、何でもあげると約束した気がする。

「すいません。あの時の、知恵の泉で言ったこと、一つだけ撤回させてください」

 未だに、女神が全部差し出せというのなら、俺はその代わりに自分の体の半分ぐらいはゆうにゼルダにあげる気でいる。その気持ちには一切変わりはないし、それでも女神が駄目だというのなら俺は女神を許さない。

 でも一つだけ、約束通りあげると困るもの存在に、営みを重ねたおかげで思い至った。

「全部上げるって言った舌、あれもやっぱり半分にしてください」

 舌だけは、いらないから全部あげると確か俺は言った。

 確かに喋れなくなっても構わない。今のゼルダならば全く言葉の無い俺でも受け入れてくれるだろうし、言わなくてもある程度は通じる気がする。奥歯に力が入らなくなるのは少々困るが、それでも彼女を守るのに必須ではない。

「どうしてですか?」

 分からないのかなぁと思って、翡翠色の瞳を丸くするその人に口付けをした。もちろんたっぷりと唾液を絡ませた舌を滑り込ませてかわいい舌に絡める。

 長いことやり過ぎるとまた欲が膨れ上がるから、ある程度のところで引き上げるのだが、理由はまさしくこれ。

「舌が無くなったらゼルダと口付けが出来なくなる。それは物凄い損失と今更ながらに気が付きました、ごめんなさい」

 口付けだけは人間の物だから。時には獣もいいんだけど、俺はやっぱりあなたと同じ人間だよという意味も込めて。

 百年前からそうだけど、ゼルダとの口付けはとても気持ちいい。それは人間だけの特権のはず。

裏庭へ戻る