「アナタ、迷っちゃったの?」
雨降りしきるなか、泥の中でうずくまる俺を見て、彼女はそう問うた。
見れば分かるだろうに、最初は酷い人だと思った。
ぬかるんだ地面に爪を立て、なけなしの力を腕に込める。そうして感覚のない下半身を引きずるように声の方へと這い寄った。まるで芋虫だ。
でもそれ以外に動く術が無い。無様と考えることすらできなかった。
もうしばらく、自分でも日数が分からない程度には、何も食べていない。ポーチの中は空っぽで、水も在りかも分からずに空に向かって口を開けていたぐらいだ。
雨と泥と枯葉が一緒くたになって口の中に入ってくる。
「あ、ぁああぁぁ……」
口から音は出たが、声は出なかった。
ぐしゃりと顔が泥の中に沈み、呼吸が出来なくなる。苦しい。苦しいよ、助けて。
黒く歪んだ視野から、自分の身体が脱落していくような感覚だ。何も考えられなくなるまで、ひと瞬きもかからなかった。