光り輝く、というのに人影というのも不思議な話だ。
しかしゼルダが駆け抜けると確かに煌めきが尾を引いて、彗星のように闇夜が切り裂かれていった。
「このハイラルを、守ってみせます!」
華奢な腕を一振りすれば一帯の魔物を滅し、あるいは一歩踏み出せば赤黒く燻る怨念が消し飛んでいく。
無才と揶揄され、ずっと俯いていた姫君はもはやいない。ついに目覚めた姫巫女から溢れ出た光は、ハイラルの全てを照らし尽くす。
この方こそ女神だと、青い双眸は確かに姫巫女を捉えていた。
だが女神の傍に駆け寄る剣を見て、青が濁りながら醜く歪む。
「ご無事ですか」
白い衣の女神と肩を並べた騎士は、彼女の瞳と同じ、青を纏っていた。王家の象徴たる青を身に着けることを許され、あまつさえ姫巫女と肩を並べることが許された者。
それだけならばまだ、救いもあった。
何より彼女が許せなかったのは、騎士の問いかけに振り向いた姫巫女がふと頬を緩めたからだ。過酷な戦場で唯一、あの騎士の隣でだけ、姫巫女はほほ笑む。
それに気が付いた時、彼女は怒りに狂った。
「大丈夫ですリンク。でもシーカータワーの方は大丈夫でしょうか」
「プルアさんの護衛にインパが付いているので心配いりません。でもこれ以上はお下がりください、ライネルの咆哮が聞こえています」
「ならばなおのこと、私も行きます」
「しかし、」
「リンクの傍は離れません。お願いします」
彼女の崇拝する女神が、まるで人の娘のように頬を染めてそっと青い衣の袖を引く。血が沸騰する思いで歯を食いしばった彼女は、そこから先のことはよく覚えていなかった。
気付けば魔物との熾烈な戦いを強いられていた時の神殿は平穏を取り戻し、ゼルダ姫は生きてまた会えるとは思っても見なかった父王と涙の再会を果たした。一方で、彼女の父は戦闘で酷い手傷を負ったが、幼い妹は教師役の女神官と共に避難していて傷一つなく無事だった。
多くの者が負傷したが、もぎ取った勝利もまた大きかった。始まりの台地の救援以降、ハイラルの軍勢は厄災に対する反転攻勢を強めていった。
だが、そんなことよりも。
その姿に女神を重ね見た姫巫女が、凡俗の人の身に堕ちてゆく。
「お姉さまが……私の大事な、女神様が」
祈りが呪いになり果てたとしても、彼女は姫巫女が清く美しいままであること願った。そのためならば彼女は何でもした。
そうして祈りが通じたのか、シレネの大切な姫巫女は、たった一人でハイラル大聖堂に現れた。