次ぐ日、朝から降って湧いた書類仕事をこなしながら、「休める時に休んだ方がいい」をリンクは噛み締めていた。
どうして目を通さなければならない書類が突然現れるのか、理解に苦しみながらもやらねばならぬとあれば机に向かうしかない。生真面目な性格で何とか書類仕事はこなしているが、元来の彼は野山を走り回る方が向いている。それはリンク自身も理解はしているが、仕事とあらば割り切るしかない。
カスイが図書室に資料を探しに行っている間に、リードの手を借りながら軍方から上がってきた資料に目を通す。理由は「訓練」と真っ当であるが、兵士の槍三十本をいきなり用立ててほしいとは不可解だ。しかもよく見れば申請者は近衛騎士の関係者の名前である。
リンクはペンを置いて、立ち上がりかけた。
「ちょっと話を聞いてきてもいいですか」
「時間がないとおっしゃられていましたが」
「いや、しかし、さすがにこれは」
浮かしかけた腰を再び椅子に沈め、腕組みをする。
用途が訓練ならばまだ話は分からないでもないが、いきなり三十も必要とするほどの増員が最近行われた話をリンクは耳にしたことが無かった。しかも王族の身辺を守る近衛である。近衛騎士がそういきなり大量に叙されるようなことはまずない。
――これは明らかにおかしい。
右から左へ、サインさえすれば終わる種類の仕事であるのは分かっていた。ただ、不穏を見逃すわけにはいかない。しかもそれが武具の類であればなおさらだ。
さてどうしたものかと組んだ腕をポンポンと叩き、彼はしばらく難しい顔をしていた。
この申請書を書いた本人のところへ向かうには、まずリードを言いくるめなければならない。無理矢理にでも行くことは出来たが、荒事はなるべく避けたい。
じっと机に向かい、執務室が静まり返る。
その静寂を打ち破ったノックは、難しい顔をしたゼルダだった。
「ごめんなさいリンク、御父様がお呼びです」
「何があったのですか」
ゼルダ本人が来ることは稀だ。大抵は侍女のどちらかが呼びに来ることが多い。と言うことは、よほどのことがあったのだろう。リンクは先ほどの不可解な武具の申請書と合わせ、物騒な思考で頭の中にいっぱいになる。
ところがゼルダはすっと視線を逸らして、申し訳なさそうにリンクの袖を引っ張った。
「私の口からはちょっと……ともかく、来てもらえますか?」
そう言って、彼女は俯いてしまったのだ。