ゼルダのうねる腰を両手で引き寄せて、思いっきり奥に打ち付ける。ぎしぎしと木のベッドがきしむ音がした。
今使っているのは一人用のベッドだが、二人で使い始めて間もなく音がするようになった。サクラダさんには申し訳ないが、このベッドの寿命を俺は夜毎に削り取っている気がする。
それでも手を緩めるつもりはない。
パンっと肌を弾ける音を響かせると、彼女の甲高い鳴き声が鼓膜を揺らした。
「リンクッ! やぁ……あっあっ、も、だめ………!」
翡翠色の瞳から宝石みたいな雫をぽろぽろと零しながら、口ではだめと言う割に彼女の胎の中の方では俺をぎゅうぎゅうに攻めたてた。外側から掴んで離さないのは俺の手だけれど、内側で俺を掴んで離さないのはゼルダの方。
長い金の髪がベッドの上で乱れて、月夜にキラキラと輝いていた。
「すごい……っ、しま、ってる……んっ」
「あッ、やっ……んんっ!」
お互いの体のことを知り始めてから、こうして肌を重ねた回数はまだ両手に収まりきる。まだ俺はゼルダがもっと気持ちよくなる場所が知りたかったし、ゼルダの方も俺の体に興味深々だった。
同じハイリア人のはずなのに、どうしてこれほどまで違うんだろう。彼女の全ては柔らかで、甘酸っぱい香りがする。例えば、リンゴみたいな。
熟れた果実みたいな彼女に覆いかぶさって、毎晩食べきれないまま俺は彼女の中で果てていた。健啖家なんてもう名乗れないなぁと思いながら、今夜も食べ残した彼女の白い体の脇に転がり崩れる。もっと欲しいのに、今この瞬間はお腹いっぱい。
ずるりと雄を引き抜くと、彼女の肢体がビクリと跳ねた。
「リンク」
「ごめ……、おれ、先にイっちゃった……?」
「いいいえ、私もいっぱいいっぱいで」
言う割に、終わると冷静になるのはゼルダの方が早い。
これは男女の違いなのか、それとも俺がまだ下手なのか、どっちなんだろうと首を傾げながら汗でしっとり濡れた彼女の体を抱きしめた。
「もっと、気持ちよくさせたいんだけどなぁ」
「十分、気持ちいいですよ?」
「もっと、もっとがいい」
何事も練習なのは分かっている。でもこれ以上やると、俺はいいけどたぶんゼルダの体力がもたない。分かっているから一晩に多くても二回ぐらいにしている。
どうしても我慢ができないときだけ、寝たのを見計らって一人で抜いてるけど。ぐっすりと寝ているので、たぶんゼルダは気が付いていない。……はず。
少しだけ後ろ暗い気持ちが顔の表側に出ないよう、ぐいぐいと鼻先を細い首筋に埋めた。犬みたいになった気分でいたら、白く細い指が俺の髪をくるくると指先に巻き付けて遊び始める。
「あの、実は少し見せていただきたいものがありまして」
ゼルダが見たいものって何だろう。見たいならば何でも見せるつもりではあるが、しかしすでにお互い一糸まとわぬ姿で触れ合っている。何も隠すものなどない。
しかも今夜は満月で、ほくろや髪の一本どころか、胸の飾りの淡い縁取りや色づいて誇張する花芯までよく見えていた。何なら俺の方だって玉袋の皺まで見えるぐらいに明るい。
それに同衾を初めてすぐのころ、彼女には身体の作りを全て触って調べられていた。
初めて見る男の身体の作りが気になって、事を始める前に全部見せて欲しいと乞われたのだ。主従の縛りが無くなったとはいえ、俺は彼女の言うことにはめっぽう弱かったのでもちろん全部脱いで見せた。
最初は殊勝に下を向いていた息子だったが、予想通り観察されている間にむくむくと起き上がって、指が触れるころにはパンパンに張り詰めていた。それを見てゼルダは何を思ったかぱくりと食いついた時には本気で驚いた。
とまぁ、それはさておき。
「何が見たいの?」
「えっと、その……」
事後だと言うのに頬を赤らめて、もじもじと視線が左右に揺れる。見たいものってそんな酷なことなのか、少々警戒する。一体俺の何を見たいんだ。
ところが彼女の口を突いて出たのは、確かに見せるには少々羞恥心を煽られるものだった。
「リンクが、その、しているところを、見せてもらえませんか?」
してるって、その。
まさか、一人でシてるところ……?
裸でヘブラ湖に突き落とされたみたいにサーっと血の気が引いた。もしや、まさかまさか、俺が我慢できずに一人で抜いているところを見られてしまったのだろうか。
さっきまで欲を吐き出した後のまったりとした気分でいたのが全部吹っ飛んだ。目がとろんと眠くなっていたのがカっと見開いて、恥ずかしそうにお願いをするゼルダの顔を食い入るように見る。
「あの、だめなら、いいんですっ! でもその、単なる興味と言いますか、もっと貴方のことを知りたいと言いますか……」
「あ、ああ……、えっと、はい……」
恋人が一人でイく瞬間を知りたいって。
でもどうやら「見たい」と言うだけで、「見ていたからもう一度見たい」ではないらしいと分かって少しだけホッとした。と同時に、少しだけ嬉しくなる。
まだ数えるほどしか体を重ねていないとはいえ、もっと知りたいと思ってくれているのが俺には何よりも嬉しかった。
「いいけど、でも、ちょっと恥ずかしいな……」
「そ、そうですよね! そうです、あの、無理しないいですからねっ」
「でもゼルダのお願いだから。あ、じゃあさ」
やおら腕に力を込めて、彼女の真っ赤になった耳元に口を寄せた。
「ゼルダがしているところも、見せてくれる?」
俺が一方的に見られるのが不公平だと感じたからだけじゃない。
彼女が自分で自分を慰めているところを見せてもらえるのなら、どこに触れたらもっと気持ちよくなれるのか分かるかもしれないから。だからゼルダが一人でシてるところも、見せて欲しいと思った。
決してやましい思いだけじゃなく、と自分で自分に言い訳をする。
「……はい、分かりました。私も見せますね」
恥じらいながら花がコクンと頷くのを見て、心の中で拳を高く振り上げたのは内緒だ。百年前に鍛えた表情筋を駆使して、俺はどうにか紳士なすまし顔を崩さないようにがんばった。
彼女がしているところを見たいって言っている時点で、紳士でも何でもないんだけど。
「ありがとう。でも今日は寝よう、明日も早いから」
「そうですね、おやすみなさいリンク」
最近とても寝つきがいいのは、たぶん夜の運動があるからだと思っている。寝る前にひと汗かいて、すっきりしてからゼルダのフワフワの体を抱きしめて寝ると、寝つき寝起きも非常に良い。
それなのにその晩だけは、わくわくうずうずしてどうにも寝られなかった。事情の後始末をしても、彼女がすっかり寝入ったのを確認してもなお、俺の股間はいやおうなく熱を帯びていた。
もちろん明日、ゼルダに見てもらうために今夜抜くなんて愚行はしなかったが、我慢が大変だった。
ところが、だ。
次の晩、俺の右の手首はベッドの脚に縄で繋がれていた。
「ゼルダぁ……あっ、は………ッ」
「リンク、がんばってください!」
「頑張って……って、んっ…どっちの、………いみっだぁっあぁ……!」
縄目はどうやって縛ったのか全く解くことが出来ず、しかも程よい長さがあるのでベッドサイドに立つことはできても股を抑えることができない。
そう、この時俺は猛烈にもよおしていた。
めちゃくちゃな勢いで、厠にいきたかった。
でも俺のお姫様は厠へ行くことを許してくれず、とろりと甘い笑みを浮かべてベッドに腰かけて俺を見つめている。空を掻く俺の右手に指を這わせ、魅惑的な唇は三日月形に弧を描いていた。
いつも俺が剝ぎ取ってしまうネグリジェの裾から伸びる素足はぴったりと閉じて、心なしかもじりと腰を揺らしている。それが妙に色っぽく目に映った。
「おねがい、おしっ……こ、いかせ、て………!」
「してるところを見せてくれるって、昨夜約束したではありませんか」
「シてるところって、オナニーしてるところって、意味じゃ、ないの?!」
「違います、リンクがおもらししているところです」
どういうご趣味で?! と突っ込みたくもなったが、悲しいかな俺は縛られたままだった互いの勘違いで進められた話だったとしても、怒ることなんかできない。俺にとってゼルダは大切な彼女ではあったが、それと同時に未だに主でもあった。
だから出来るのは懇願だけ。
「さすが、に、もらすのっ……はっ、うぁ……はぁっ」
「だめですか?」
「普通はね?!」
思わず上げた大声が自分の体の底を震わせる。咄嗟に半ズボンの寝巻の内側で暴発しそうな竿を左手で抑えた。
そこでモノがどっち向きに収まっているかなんて、この際バレてもよかった。その場でジタバタと足を踏みかえながら、ぎゅっと自分の股を抑える。情けないことこの上ないが、そうでもしないともう膀胱は決壊寸前だった。
確かに今日は昼あたりから妙だなぁとは思っていた。
珍しいお茶を貰ったからどうぞと何杯もすすめられ、何かにつけて水分の多い食べ物を所望された。リンゴなどよりもヒンヤリメロンが食べたいと言われたぐらいだった。
そのうえ夕方ぐらいから厠の方へ行こうとすると呼び止められて、大した用事もないのに抱きしめて欲しいなんて言われた。一体どんな風の吹き回しだろうかといぶかしんだが、甘える彼女の顔があまりにも可愛すぎて、一瞬尿意を忘れて深く口付けしてしまったのが俺の敗因だ。
ベッドに行く前にはさすがに出しておきたいと思ったのだが、その前に用事があると手を引かれて二階に連れていかれれば従うしかなかった。気が付いたら手首を縛られてこの様だ。
「ぜる、あっ…はっ……あぁ、もれる、からっ……!」
「漏らしていいんですよ」
「い、やっ……ンッ」
ぶるっと体を大きく震わせて、何度目かの大きな尿意の波に奥歯を噛み締める。股に食い込むほどズボンを引き上げ、それでも収まりのつかない足の隙間に左手を突っ込んで抑えた。
身体ならばいくらでも見せるし、ゼルダには嘘も偽りも言うつもりはない。望むなら心臓だって見せるぐらいに思っていた。
でもさすがに排尿のその瞬間を、愛しているとはいえ彼女に見られるなんて想定外だ。羞恥の方が未だに勝る。
ところが女神にも似た彼女はどうあっても、俺が我慢の限界を迎えるところを見届けるつもりのようだった。いつもベッドサイドに準備している水差しとコップに手を伸ばす。何をするつもりか分かって、目を剥いて叫んだ。
「やめっ、てッ!」
だが哀願も虚しく、わざとらしく高い位置から木のコップに水が注がれる。口の細い注ぎ口からは、とぽぽぽぽと排尿音を連想させるような細く勢いのある水音が弾けた。
「おと、立てないっ……でぇっ……ふっ、あっ……!」
「だって、間に合わなさそうなんですもの」
この後に何が控えているのかなんて知らない。でもゼルダが俺を急かしているのだけは分かった。
まぐわっているわけでもないのに彼女は頬を朱に染めて、ゆっくりと水差し傾け続ける。しばらく続いた水を注ぐ音は、コップの縁まで水が入るまで続いた。
それでも耐え抜いた俺を見て、ゼルダは肩をすくめてコップと水差しを元の位置に戻す。俺は涙目になりながら、前かがみになってこれでもかと言うぐらい太ももを擦り合わせた。背を滑り落ちる冷や汗の刺激さえ、ぴりぴり肌に突き刺さって崩壊への呼び水となる。
「おね、がいっ………んぁっ…ほどい、てぇ……‥ふはっ、あぁ………ッ」
「こんなお願いできるの、貴方だけなのです」
それはそうでしょうねぇと軽口をたたく余裕はもはやなかった。鼻と口からは、ふうふうと熱い息を吐き出して、じんわりと目の端まで熱くなる。
厠に間に合わずに人前で漏らすのは、もちろん恥ずかしい。
でもなによりも、大好きな女の子の前でおしっこをぶちまけるのが嫌だった。
「リンク?」
背を丸めて俯いて、足踏みをして耐えている俺の顔を真下からゼルダが覗き込む。不安そうに、心配そうに、その冷たい指先が一瞬だけ俺の腕に触れた。
その瞬間、腹に力が入る。
「う、はぁッ……」
足を動かすことすらできなくなった。
しゅうううと、か細い水音がして、それが自分の股からだと気が付くまでにそう時間はかからなかった。
必死で抑えていた左手が秒も経たずに濡れ、指の間から熱い液体があふれ出す。それは月夜にぬらぬらと光っていた。
いつしか小さかった音は大きくなり、しょばあああと勢いをつけて俺の竿の先から尿が噴き出す。
「はっ、やッ……ゼルダ、みないっでぇ……!」
瞬く間に股間を濡らし、ズボンが吸い切れなくなった尿が滴り落ち、両足の内側を伝って床に到達する。熱い流れは止めどなく流れ、じゃばじゃばと音を立て俺の足元に温い水溜まりを形作った。
あまりの醜態に顔を上げることも出来ず、かといって足を閉じている意味も無くなり、渋々足を開く。すると伝わる足を失った尿はじょぼじょぼと音を立てて、頼りない寝巻の布地を貫通して床に落ちて飛沫を上げた。
もう限界。
口から「あぁー」と言葉にならない音を吐き出しながら、自分が作った広大な生温い海を見る。どうして、どうして。ゼルダはなぜこんなことを望んだんだ。
「リンク」
柔らかく物静かな声色は変わりなく、未だに続く放尿音にかき消されそうだった。
ところが、こともあろうに彼女は、飛沫を立てておしっこを漏らす俺の目の前に立つ。呆然と上げた顔を冷たい手に包まれた。
「いや、だ……ゼルダに、見られるなんて……おれ………」
言い訳など思い浮かぶ余地もなく、頭の中は真っ白だった。
ゼルダ自身に仕向けられたとはいえ、本人の目の前で俺はべっちょべちょにおしっこまみれ。ツンとした匂いが鼻につく。
「リンク、ありがとうございます」
途端、ぐいと体を引き寄せられて、唇を塞がれた。
んぐっと変な声を出したが、それすら飲み込まれる。
それよりも何よりも、未だに止まらない俺のおしっこが彼女の体を濡らす。俺とゼルダの体の隙間を、熱い飛沫が音を立てて伝い落ちていく。俺の排泄物で大事な姫君が汚れてしまう。
慌てて体を引き剥がそうとしても、がくがく震える力の入らない体では上手く距離を置けなかった。
「だ、だめっ…だか、ら……ッ」
「いいのです、私がこうしたかったのだから」
どうして。
疑問を挟む余地なく、再開された深い口付けに訳もなく涙が出た。
それは俺の膀胱が空っぽになるまで続いた。
「生き物ってね、食べている時、寝ているとき、交尾をしているとき、そして排泄をしているときが無防備になるんです。どんなに強い生き物でも、それは同じなんです」
だから見たかったのと聞くには、いささか俺の精神は疲弊し過ぎていた。
どんなに手強いライネルと戦った後よりも体に力が入らず、冷たくなった足元の水溜まりに無言でへたり込む。もはや下半身はずぶ濡れで、これ以上濡れようがない状態になっていた。
「ごめんなさい、ハイラルで一番強い貴方が無防備になるところを、余すことなく全部見たかったのです」
「まんぞく、した?」
「はい、とっても」
どうやらゼルダは俺のことを決して嫌いにはなっていないようだった。それだけが救いだが、疲れ果てて項垂れるしかない。
だが彼女はなぜか、はあぁと長く悩まし気な吐息を漏らしていた。
「リンクも、見てくれるんですよね」
「へ?」
簡素なネグリジェの裾が持ち上がる。そこには見知った白いレースの下着がこちらを向いていた。
「もう、私もっ……げんか、い、なのっ………!」
しゅっと、何かが噴き出す音がした。
次の瞬間、レース地の隙間から金色に輝く液体があふれ出してくる。
「あぁっ……はぁ、んっ………んんっ…」
ふるふると体を震わせて、ゼルダの股から溢れ出ていたのは紛れもなく尿だった。しょおおおおと俺よりも高い水音が弾ける。
高貴な姫君でもおしっこをするのかと、的外れな感想が一瞬だけ頭をよぎった。
そりゃあ彼女は女神ではなく俺と同じハイリア人だから、飲み食いすれば出るものは出るんだろうけど。それにしたって、柔らかな太ももをがくがく震わせながらおもらしをするゼルダは、それはそれは綺麗だった。
綺麗だと感じる自分の思考回路を俯瞰して、「なるほど」とわずかに腑に落ちた。ようやく愛おしい相手の漏らす姿を見たい気持ちの端っこを掴んだ気がする。息を荒げて頬を染めて恥ずかしそうに放尿する彼女は、いつも通りベッドで覆いかぶさって奥をコツコツと尋ねていくときと同じぐらいに可愛らしい。
「ゼルダ、かわいい」
ネグリジェの裾を持ちあげた両手は白くなるほど握り込まれていて、決して自然ではないことも見て取れた。ゼルダとしても、抵抗がない行為ではないらしい。それでも俺に見せてくれている。
それが分かった俺はひざまづいたまま、勢いづく彼女の股に顔を埋めた。
「り、んく……ひゃんっ!」
到底、口に収まりきる量ではないので、熱い液体がばしゃばしゃと顔を濡らし、喉を伝い、胸を濡らす。それが逆によかった。
恥じらうゼルダを特等席で見ていられるのが、正しくそこだったから。
しばらくしておしっこに勢いがなくなり、ほうと彼女の安堵の溜息が聞こえたので顔を離した。
「飲んじゃった、んですか?」
「うん」
「まぁ……」
美味しかったと答えたら怒られるかもしれないので黙っておいた。でも正直に白状すると、顔面で受け止めたゼルダのおしっこは最高だった。
以来、俺とゼルダは少し変わった営みをするようになった。誰にも言えない正真正銘二人だけの秘密。俺が我慢する側になることが多かったのは、彼女の好みと要望以外の何物でもない。
ただし、そのこと自体には欠けらの不満も無いことは、ゼルダにも秘密にしてある。
了