ペパパと雪の日

「遊ぶゾナ! 遊ぶゾナ!」

「何して遊ぶー? かまくらで鍋? チーム対抗雪合戦?」

 ナモミンと手を繋いでにっこり笑ったゆうしゃサマに向けて、ペパパが差し出したのはスコップだった。

「雪かきでス」

「……はい」

「遊ぶゾ……」

「遊ばなイ」

 また気温が下がった気がすると、ぼやいたのはアズキだったか、マカマカだったか。

 

 朝起きたら森が真っ白だった。

 近頃は寒い寒いとコログたちはおしくらまんじゅうをして遊んでばっかりだったのだが、ついに昨晩コログの森にも雪が降った。いつもの冬ならここまで寒くなることはない。どうやら今年のタバンタの寒風は少しきかん坊で、雪雲をひょいと東へ押してしまったようだ。

「たくさん降りまシたね……」

「珍しいわね~……ペパパが機嫌悪いなんて」

「雪は嫌いでス」

 小さなスコップを片手に、ペパパとナトゥーがため息をつく。

 小さいコログたちはきゃいのきゃいのと雪に楽しそうだが、大きいコログたちはそう遊んでばかりもいられない。デクの樹様の目の前の広場は分厚く雪が降り積もり、おへそへの出入り口の根は雪でカチカチに凍っている。

 デクの樹様自身はどうということはないが、ともかく通り道ぐらいは雪かきをしなければならない。またいつ、ゆうしゃサマが遊びに来ないとも限らないので。

「遊びたいゾナ!」

「ちゃんと雪かきしてくださイ!」

「ぎっくり腰じゃも……」

 雪なので珍しく起きているナモミンと、きのこ屋さんのダズィーも頑張っている。長老のスタジイのスコップは杖替わりで、もはや何の訳にも立っていない。

 こんな調子ではいつまた雪が降るか、それとも溶けて無くなるのを待った方が早いのか。ぼんやりペパパが空を見上げた時だった。しゅるしゅると青い光が集まってきて、キヨ・ウーの祠の前に人影が立つ。

「やっほー、遊びに来ちゃった」

 来ちゃった。ゆうしゃサマきちゃったかーと大きいコログたちは頭を抱えた。

 何しろ誰もがゆうしゃサマと遊びたい。なのにまだまだ雪かきは終わらない。かといってあのゆうしゃサマは待ってくれるタイプの人ではない。

 プラスとマイナスの葛藤に苛まれたコログたちは、二種類に分かれた。諦めて遊ぶ者と、雪かきをする者とに。

 そして温厚なペパパの鉄槌がナモミンに下ったわけである。

 さすがに体力オバケなゆうしゃサマの活躍もあって、昼前にはデクの樹様の周りはすっかり雪かきが終わっていた。道ではない場所にたくさん積み上げられた雪に滑り台を作って、小さいコログたちはつるんつるん遊んでいる。

「ペパパも遊ぶ?」

「そんな元気なんてありませン」

 不機嫌そうに白い息を吐き出したペパパは、これから今日のお布団チェンジが始まる。しかもこの寒さでは青くてしゃっきりした葉っぱが見つかるのにも時間がかかるだろう。コログたちのお面もしおっしおになろうかという寒さだ。

 いろいろ屋さんもきのこ屋さんも、雪だから売る物が無いなんて気楽なことを言って休んでいた。しかしベッドは休みになどできない。なにしろ当のゆうしゃサマが遊びに来てしまっているのだから、取り替えないわけにはいかないのだ。

「気を付けるじゃも」

 コログのうちわをコルセットみたいに腰に巻き付けたスタジイに見送られ、ペパパはそれから小一時間かけて真新しい葉っぱを探した。あとデクの樹様のおへその中を温める用の薪もいくつか背負って帰った。

 よっこらせと重たい荷物を雪の上に置く。いつの間にか広場には大きな雪だるまとかまくらが出来ていて、ちいさいコログたちはみんなかまくらの中でぬくぬくしていた。

 ふとペパパが見上げると、雪だるまが雪を食べてた。食べた跡が轍のように続く。

「美味しいでスか」

 雪だるまはだんまり。

 しばらく返事を待っていたペパパがため息をついた瞬間、雪だるまは口を開いた。ペパパの吐き出した白い吐息をぱくりとする。

 びっくりしてはがれそうになるお面を両手で抑えた。

「驚いた?」

 ひょっこりと雪だるまの影からゆうしゃサマの顔が覗き出る。ペパパの白い息をぱくりと食べたのは、ゆうしゃサマの口だった。

「なんだ、ゆうしゃサマでスか」

「帰ってきたペパパを驚かそうと思って、おっきい雪だるま作ったんだー」

 にこにこのゆうしゃサマは、ペパパが見上げるほど大きな雪だるまの頭の上に四角い形の爆弾を乗せる。青い帽子を被ったみたいに見えた。

 目はドングリで鼻はゴーゴーニンジン、口は木の実をたくさん並べている。

「手に、これをどうゾ」

「いいの?」

 ペパパは拾ってきた薪から細いのを一本抜き取ると、ちょうどいい長さに折る。片方をゆうしゃサマに渡し、もう片方を自分で持った。

「手がないと雪だるまもかわいそうでス」

 左右に枝を差し込んで、立派な雪だるまが完成した。満足げに頷いて、ペパパはまた青い葉っぱと残りの薪を持つ。

「持ってあげようか」

「これぐらい大丈夫でス」

 下り坂を滑らないようにとぽとぽと歩いて行く。その背後で声が聞こえた。

「あ、だめ!」

 何事かとペパパが振り向いた時、小さいコログたちが寄ってたかってゆうしゃサマからシーカーストーンを奪って遊んでいるところだった。デクの葉を器用にくるくる操って、高い木の上に逃げてしまう。

 しかしゆうしゃサマのことだ、すぐに取り返せるでだろうとペパパは背を向けた。目の前にはつるつるのデクの樹様の根っこ。ここを登り切る方が、今は重要だった。

「シーカーストーンで遊んじゃダメ!」

 ゆうしゃサマの叫び声と、リモコン爆弾の爆発音はほぼ同時だった。

 今度こそ「エエッ?!」とペパパが振り向いた時には、ゴロゴロと転がってくる大きな雪だるまのボディーがもう目の前に。

「ぴゃっ!」

 シーカーストーンを取り戻したゆうしゃサマが慌てて雪の大玉を退かす。しかし時すでに遅く、ペパパのお尻には深々と木の枝が刺さっていた。

「ペパパ……だ、大丈夫……?」

 ぷるぷるしながらペパパは叫んだ。

「だから雪の日は嫌いなんでス!」

 以来、コログの森に雪が降るとデクの樹様のおへそはお休みになるらしい。

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