殊のほか彼らの生活は快適だった。一年通して暖かいことと、そして島に居付く魚が多かったことで、これまで食糧に困ったことは一度もなかった。小さいながら森に入れば木の実も採れ、小動物もいた。網を投じれば大小様々な魚も獲れる。時には島の脇を大きなクジラ(彼らの言葉ではイイラファという)が通ることもあって、その時はたった五十人にも満たない島民総出で狩りを行う。
そんなのどかな生活を彼らは数百年続けていた。大きな争いも無かったし、病気で多くの人が死ぬようなこともなかった。
しかし恵まれた彼らにもただ一つ神に願うことがあった。切実な願いとは丈夫な子供を授けてくれること。事実、島ではなかなか子供が生まれなかった。孕む女も少なく、また流産も多かった。その上生まれる子供の多くが、手足の指が一本多かったり少なかったり、腕が多かったり、中には頭が二つある子供もいた。話せない子供や話の通じない子供もいた。それでも生まれた子供を大切に育て、その彼らが次の代に命を繋いでいく。そんな生活を細々と何百年も続けていた。
――と、このように少年は語った。
この悲しそうな目をした少年は実は、つい先日仮死状態で見つかった。一命を取り留めた彼は最初何も話さなかったが、次第にとつとつと自分の記憶を語り出した。
これは監察医である私が彼、ナギという少年との対話内容と、ある少女の記憶から推測し、まとめた記録である。