お食事の時間 - 2/4

 程よく酔いが回ったあたりで、いろいろなことをすっかり忘れて青年は店から出た。明日の仕事など、どうにでもなれと、こういう時だけは気が大きくなる。

 ふと、店の路地裏に目をやると、先ほどの綺麗な女が一人で立っていた。見間違えもしない赤いワンピースに、黒い髪と白いうなじがとてもよく映えた。青年はそのほっそりとした後姿に見惚れていた。すると女がその場にしゃがみ込んでしまった。バーから出てきて、うら若い乙女が路地裏で気分でも悪くなったのかと、そんな現場に居合わせたのなら男なら助けねばなるまい。青年は急いで駆け寄り彼女の肩をトントンと叩く。

「おい、大丈夫かい?」

「……う?」

 目を丸くした女が振り向いた。血まみれの顔が振り向いた。

 女の向こう側には、頭の無い死体が転がっていた。女の手には齧りかけの頭が握られていた。

 青年はまず驚愕して、次に恐怖して声が出ない。女の方も見られたということに驚いて手に持っていた頭を取り落とした。足元にあった血だまりにボチャっと音がした。

 青年が叫ぶか、女が青年に掴みかかるか。一瞬、女の方が速かった。女が迷いも無く青年の口を掴んで地面に押しつけた。女の細い片腕とは思えない力で、青年は抑えつけられた。青年はそこまでガタイのいい方ではなかったが、それでもか弱そうな乙女の腕の一本、本気を出せばへし折れないことはない。ジタバタと暴れながら、これが夢か幻想ではないかと、そうであって欲しいと青年は祈った。だが、先に殺されていた男の血の温かさが肌を伝い、現実であることを告げていた。

 女はしばらく青年の口をふさぐだけで困った顔をしていたが、やや間があってから彼の鳩尾を打った。そして肩を貸すように、一見すると酔っぱらった彼を助ける彼女のように、女は青年を引きずって路地裏を奥へと歩いて行った。