〇月〇日
大丈夫と思ったのは私の過信だった。
今日も部屋に入り、内側から鍵を掛け、傷の手当てをしようと鎖を解いた。傷の手当だけは、それが必要なものだと分かっているのかリンクは大人しく私の指示に従った。消毒液の匂いだけは敏感でとても嫌そうな顔はするが、必死で痛みに耐えて手当てをさせてくれた。
だが今日、運悪く私の様子を見に来た侍女が居たことに気が付かなった。もちろん侍女に非はない。でもタイミングが悪すぎた。
傷の手当てをして、落ち着いて膝の上で寝かせようとしていたその時、部屋の戸を叩いてしまったのだ。
鍵はかかっていたのでもちろんリンクは外には飛び出さなかった。出せなかった。
でも音に驚いた彼は、一番近くにいた私を弾き飛ばした。
目の前が真っ白になり、気が付くと視野は真っ赤になっていた。衰えたとは言えあの膂力で硬いレンガの壁に叩きつけられて、頭から血が噴き出していた。その生温い自分の血に、しばらくは痛みさえ理解できずに呆然としていた。
しかし怯えていたのは私ではなくリンクの方だった。辛うじて手を伸ばし、無理やりにでも笑顔を作って「大丈夫ですよ」と声を掛けたが、ずっと見開いた目が滴り落ちる血を追っておどおどとしていた。とてつもなく怖がらせてしまった。可哀そうなことをしてしまった。
もうどうしたらいいのか分からない。