狂犬ちゃん - 3/25

〇月〇日

 結局、リンクの人格は端的に言えば壊れたままだった。言葉を解さず、また人語もほとんど口にしなくなっていた。

 聞けば私がハイリア湖への修行に発つ日、彼は修行の内容の苛烈さに抗議をしたのだと言う。だが抗議を反逆としてとらえた一部の貴族たちによって投獄されて、そこで手ひどい拷問をうけたのだとか。

 それを聞きつけた御父様がさすがに問題視されて戒めを解いたらしいが、時すでに遅く、怒り狂ったリンクが暴れてあのような事態になったらしい。私に過激な修行を課した十数名の神官と貴族たちが、彼の爪と牙によって命を奪われた。

 リンクの身柄は城で一番強固なレンガ造りの一室に移された。流石に罪人のための地下牢ではなかったが、高いところに鉄格子の入った窓が一つだけ。到底、人が暮らすための部屋ではない。

 でも普通の部屋に匿えるほど、リンクの状況は良くなかった。起きているときはおよそ人とは思えないような唸り声をあげ、汗とも涎ともつかないものを滴らせて辺りを威嚇し続ける。拷問を受けた後そのままの服装だったので本当は服も替えてあげたかったけれど、私が触れている間だけ膝に頭を乗せて寝られるらしいので無理に服を剥いで替えるのも忍びなかった。

 だから夜、安心して私の膝の上で寝ているときにだけ口輪と鎖を緩めて、肌を拭いてあげる。出来るのはそれだけ。口輪の隙間から少しずつ食べ物はあげたけれど、上手く食べられているのかもよく分からなかった。

 ただ一言残ったのは「ヒメサマ」と。

 落ち着いているときに私を見て、青い目を細めてか細く鳴く。それ以上の言葉はもはや出てこなかった。