〇月〇日
やはり無理がたたったのか、日課の口付けをしている間に意識が飛んでしまっていた。はたと気が付くとリンクが服を一枚脱いでいて、ああ、また抱かれるのかしらと思って手を伸ばす。
でも「構いませんよ」と言ったら、彼は泣きそうな顔で、実際泣いていたのかもしれないけれど、「違います、こんなに体が冷えていたら姫様が死んでしまう」と言い捨てた。
もう部屋には鍵もかかっていなくて、本当ならリンクは逃げられるはずなのだ。それでも逃げない。どうしてと聞いたら、逃げた先で狂って人を殺めてしまったら私に迷惑が掛かるからだと言う。
そんなこと、何でもないのに。
貴方をこんな風にしてしまったのは、元はと言えば私が無才の姫だからなのに。「悪いのは私です」と言ったけれど、どれだけ意味が通じたかはよく分からない。それでもいいわと思って少しぼうっとしていたら、よろよろと四つん這いで傍まで這って来たリンクがそのまま額を床にこすりつけた。
「姫様、口付けをくださいませ」
それが正気を保つための唯一の方法だと、すでに彼も理解している。もちろん私は喜んで口付けをした。求められて嬉しかったのは内緒。本当は口付けをお預けして焦らしたいぐらい。
でもリンクの悲しそうな顔を見ながらする口付けはしょっぱい。どうしてかしら。