〇月〇日
人としての生活を失って以来、彼が発する言葉はこれまで「ヒメサマ」だけだった。
ところがこの日、初めてそれ以外の言葉を発した。
それは「しにたい」だった。
なんてことを、言わせてしまったのだろう。何というところまで彼を追い詰めてしまったのだろう。
ここまで生き永らえさせたのは私。ならば失った言葉を掘り返してでも、その気持ちを絞り出させてしまったのも私。
ミファーはきっとこの言葉を聞いていたのでしょう、もうずっと前に。
確かに、直に聞けば受け入れてあげたいほどの痛烈な願いだった。でも私は、それでも私は、生きて欲しいと願ってしまう。
「お願いだからそんな事を言わないで、私を置いていかないで」
溢れる涙で前が見えなくなる。とっさに手を伸ばして彼の頭を抱えた。バリバリに張り付いた髪を抑えて、叫びそうになる口を閉じて嗚咽を飲む。
でもリンクから発されたのは「いきたい」ではなく、単純な痛みに対する悲鳴だった。
口輪で擦れた傷に触れたらしく、キャンと鳴いて体を震わせる。それを見て私は、やはり自分が自分のことしか考えていないことを思い出す。
「置いて行かないで」とは何事だろう。リンクに対して言う言葉じゃない。
これでは彼を救いたいと口では言いながら、自分が救われたい偽善者ではないか。ほとほと自分に嫌気がさす。
こんなことではだめ。絶対に駄目。