狂犬ちゃん - 14/25

〇月〇日

 どうにかしてリンクに何か口移しで物を与えてみたいが、なかなかチャンスが巡ってこない。そもそも口輪を外せるのは熱を出してぐったりしているときだけなので、そうなって欲しくないのだが。試したいと思えることがあるのは良い傾向と考えることにした。

 一方で私の修行は以前にもまして長時間になっていた。流石にリンクが狂った原因となった命にかかわるような修行は、再び彼を狂騒状態にさせかねないとして却下されたが、その代わり泉での修行は以前の倍に。十分な睡眠時間も取れないが、かといってリンクの世話をおろそかにも出来ない。

 そんなことが重なったからこその事故だとは、自分でも理解している。

 でもハッと彼の暗い部屋で目が覚めた時、闇夜に光る目が私を見下ろしていることが最初理解できなかった。

 どうして鎖につながれていないのか、なぜ口輪がないのか。全ては自分の不手際で鍵が外れてしまったせいだと理解した頃には、リンクの手が私の首に伸びていた。

 華奢な体躯にしては大きな手が喉に食い込み、逃げようと藻掻くと牙が肩に食い込んだ。でも悲鳴だけは堪えた。リンクが落ち着くまで、やりたいようにさせた。

 だってリンクをこんな風にしてしまった原因は力が目覚めない私だし、あるいは彼なら何をやっても許せる。

 泉での修行からそのまま着ていた巫女服が破かれても、今まで誰にも触れられたことがない体の奥まで彼のくさびを打ち込まれても、ただ耐えた。痛くて苦しかったけれども、これが罰の形だというのなら、他に真っ当な贖罪の仕方なんて分からないから全部受け入れる。

 夜更けに、ようやく落ち着きが戻ってきたリンクは私の顔を舐めてくれた。温かい舌が愛らしかった。

 何か、必死で訴えるように吠えていたけれど、私はミファーではないので理解はできない。人から見れば狂犬がまた吠えているように見えるのだろう。でも私には彼の悲痛な叫びのような気がした。

 むしろ人から獣になってようやく、リンクは感情を表に出せるようになったのかもしれない。ならば笑って欲しいと願ってしまう私は愚か者だろうか。