déjà vu ? - 4/4

case-回生・その後

 ハテノの家にゼルダを連れて帰ったのは、厄災を討伐し終えてからしばらく経ってからのことだった。

 記憶の大半が戻って、自分が騎士だったことも、姫様のことを百年の昔からお慕いしていたことも全部思い出してのことだった。だから今でも信じられないと思いつつ、只人になった姫様を、俺はゼルダと呼ぶ。

 でも何度も肌を重ねるうちに、ゼルダは俺に一つだけ妙なお願いをするようになる。

「リンク、今日、いいですか?」

「んー……。また?」

「ごめんなさい、……その、見たいの」

 分かってる。夕食後に利尿作用の高いお茶を俺に飲ませていたことからも、ゼルダの妙な趣味が今日はねだってくるのは分かっていた。

 分かっていて、俺の方も厠へ行くのをずっと我慢していた。

 ベッドサイドに厚手のタオルを布いて、その上に素足で立たされる。ひざ丈までのズボンははいたままで、すでに腰のあたりがむずむずして足踏みをしていた。

 ゼルダはこうして時々、俺にわざと漏らすようにとお願いしてくる。

 理由はよく分からない。ただ、見たいのだと言う。

「どうしても?」

「駄目ですか……」

 シュンとされると、なぜかこっちが悪いことをしている気分になるのだから、本当に彼女は存在自体が罪だ。主従の縛りが解けてもなお自然と従ってしまうことも、あるいはこんなあり得ないことをお願いすら断れないのも不思議と言えば不思議。

 内ももを擦り合わせながら、はぁーっと大きく息を吐き出す。向かい合うようにベッドサイドに座っていたゼルダの柔らかな手が、強ばる俺の太ももを撫でた。

「んっ……」

「ふふふ……可愛いですリンク」

「それ、男に言うセリフじゃないよ」

「でも耳まで真っ赤で、おしっこ我慢して、本当にかわいらしいの」

 そう言いながら、ゼルダもまた自然と太ももを擦り合わせていた。本当なら俺は勃ち上がった雄をゼルダの潤む秘所に擦り合わせたい。でもその前に漏らすところを見せないと、たぶん今日は入れさせてもらえない。

 なんでこんなことをお願いされるんだろうと分からなくなりながら、高まる尿意に意識を集めていく。出すと言っても厠でもない場所では、本当に意識しないと出すことは体が許してくれない。

 一度、馬宿で間に合わなくって漏らしたこともあったけど、ああなるまで我慢するのは逆に至難の業だった。

「そう、いえば……んはぁ………、馬宿で俺が意地悪なおじさん二人に、絡まれて漏らしたのって」

「ごめんなさい、見てました」

「やっぱり……んんっ……」

 見られてた。あの時はまだ全然記憶が戻ってなくて、女神さまにでも覗かれたのだと思っていた。でも見ていたのは女神じゃなくて、生身のゼルダ。また恥ずかしい思い出に耳が熱くなる。

「お腹、押してあげましょうか?」

「ん……いい………」

「じゃあ耳元でしょわしょわって言ってあげます?」

「なんでそういうことばっかり知ってるの」

「だって、リンクが可愛いんですもの。いろいろ調べちゃって」

 背中を丸めるようにして我慢する俺の顔を、ゼルダはわざと覗き込んで淫靡に笑う。ちょっと意地悪で、俺の大事な女王様。

 会話をしている間もずっと指は俺の太ももを撫で続け、ぞくぞくする気配は一層強くなって膝ががくがく震えてくる。もうちょっとで、出せる。

 出る、じゃなくて俺はゼルダの前でだったら、出せてしまう。

 自分でもちょっと変な気もするけど、お願いされたから出来るようになってしまった。

「あっあっ、で、だめ、ゼルダっ……出ちゃう……」

「足を開いて」

 無意識に差し出された彼女の手を握って、タオルの上でわずかに足を開いた。

 はっはっはっと息を上げながら、ぶるっと体を震わせると、しょわーーーーーと音が始まった。静かな家の二階に俺の漏らす水と息遣いが響き、内ももを熱いものが伝い落ち始める。

 しょわわわわわわ……。

 ぎゅっと目をつぶって、自分の竿の先から尿が溢れている感触は鋭敏に感じる。シーカーパンツの中で上を向いた先っぽから、股を伝って熱い液体が零れ落ちてくる。もはやそれが気持ちいいとさえ思えてしまう。

 繰り返すたびに頭がおかしくなっていく。見られているのが分かっている、その羞恥が逆に気持ちいい。

 しょわしょわしょわわわわ……。

「はっ……ぁはっ……」

 うっすら目を開けてゼルダの様子を伺うと、熱っぽい視線とがっちりかち合った。彼女もまた、頬を朱に染めて俺の漏らすところをうっとりと見ていた。そのまなざしに、逆にぞくぞくする。

 だからまた、こんなことやってしまった。お願いされたとはいえ、やってしまった。

「ン……、ちゃんと出たよ、ゼルダ」

 ちゃんと報告すると彼女が喜んでくれるのは分かっていた。果てしなく淫らな気配がするのに、女神のように慈しみ深いほほ笑みが俺を褒めてくれる。これほどの魔性の笑みは百年後の今だから見せてもらえるのだ。

 ……と頭では理解していたが、その表情自体にはどこか見覚えがある気がした。もしかしたら失った記憶のどこかで向けられたものなのかもしれない。

 でも、だとしたらそれはいつ? どうして?

「よくできましたリンク。ともかく替えの服を持ってきますから」

「……ごめん、先に準備しておけばよかった」

 濡れてぴったりくっついたズボンを脱ぎ、これ以上水溜まりを広げないように歩かずに待つ。

 その間にまたやんわりと、不可思議な感覚に襲われた。

 そう、幾度となく繰り返されるこの行為のたびに、俺は何とも言えない既視感にとらわれる。でも俺の取り戻した記憶の中をいくら探しても、該当するものが無かった。

「汚いとは思わないの?」

 何度目かの同じ問いに、タオルと着替えを持ってきた彼女は慈母のような笑みで答えた。

「リンクのなら、構いません」

「いいんだか、悪いんだか」

 いぶかしみながらも俺は、漏らすところを見られて悦んでいる自分がいることには気が付いていた。変な感覚に見て見ぬようをして、ひたすら姫君の欲求に応えているだけの振りをする。

 それでも膨れ上がる既視感。

 それに、シーカーストーンのウツシエの中に、どうしても写っているものが分からない絵が一つだけあることにも気が付いていた。データが壊れてしまって開けないのに、ゼルダはなぜかそのデータを消そうとはしなかった。

 初めてのはずなのに不思議と覚えがある、閉じた記憶の蓋を開けてはならないような感覚。

 たぶん俺は、大切なことを何かまだ忘れている。 

裏庭へ戻る