無垢な勇者を調教する方法

 リンクが消えた。

 ある日突然、リンクがカカリコ村から居なくなってしまった。

 多くの犠牲を払い、長きにわたった厄災との戦いを終えたあと、私はインパを頼ってカカリコ村に身を寄せていた。記憶が不確かなリンクも百年の時を埋めるように傍に居くれて、本当に夢の様に穏やかな時間が流れている。

 これからは新たなハイラルのために、共に手を携えて歩んでいけると思っていたはずなのに。

「一体彼に何が? どうして、どこに行ってしまったというのです?」

「わしにもさっぱり。カカリコ村の周辺には影も形もないようです」

 インパとそう話をしてから、すでに数日が経とうとしていた。彼が寝起きしていた部屋には退魔の剣は残されたまま、シーカーストーンも放り出されている。本当に着の身着のまま、衝動的に出て行ったきり消息が分からない。

 シーカーストーンはともかく、まさか退魔の剣を放り出して彼がどこかに消えてしまうなんて、百年前を思うと到底考えられないことだった。非常事態と言ってもいい。

「本当にどこか彼が行きそうな心当たりはないのですか?」

「といいましても、あやつは身一つでハイラルどこへでも行ってしまいますゆえ」

 ううむとインパが唸る。ところが孫のパーヤは難しい顔をして、小さく「あの」と手を挙げた。

「もしかしてハテノ村ではないでしょうか?」

「ハテノ村?」

「はい。リンク様がそこに家を買ったと、以前お話されていたのを思い出しました」

「リンクに自宅があったのですか……!」

 思わず立ち上がってしまった。しかもハテノ村と言えば、古い記憶をたどると確か彼の故郷だった気もする。

 そうと分かれば、居てもたってもいられなかった。

「インパ、今からハテノ村の様子を見てきます!」

「何も姫様が行かずとも、誰ぞ人をやって探させますぞ」

「幸いにもハテノ村にも祠があるので、シーカーストーンの使い方が分かっている私が行く方が早いでしょう」

「しかし……」

 インパは随分と渋っていたが、私だって彼のことを思うと引くに引けない。

 厄災を封じてもなお、リンクの記憶は完全には戻らなかった。曖昧に戻った記憶を持て余した彼は、体は頑健なのだが今一つふわふわとして頼りないところがある。助けてくれる頼もしい存在ではあるのだが、心のどこかでは常に心配の種だった。

「大丈夫です、少し様子を見て来るだけですから」

 そっと退魔の剣に手を添える。

 その瞬間、剣の精霊が微かに呟いた。

『マスターの家出は、ファイが原因である確率二十……十二…………三%、ぐらい?』

「……?!」

 剣の精霊の声は私とリンク以外の誰にも聞くことができない。

 だから彼女の言葉の意味がよく分からなくとも、私は酷く狼狽してしまった。剣の精霊は冗談や無駄なお喋りはしない。その精霊が口を開くと言うことは、やはり何か決定的なことがリンクの心身に起こっている証拠ではないだろうか。しかも彼の不調が退魔の剣を抜いたことによる副作用ならば、その責任は対たる私にもある。

「なおさら私が何とかしなければ……、必ず私が彼を連れ戻します!」

 私は剣の精霊に固く誓う。でも剣の精霊がどこか呆れた様子だけは少し不思議に思った。

 すぐさま一般的な村娘の格好をしてハテノ村へ向かう。なだらかな斜面に家々が並ぶ村は、のどかではあったが確かに田舎という言葉がぴったりだ。決して悪い意味ではなく、良い意味で。

「ここがリンクの生まれ故郷なのですね」

 本当ならばのんびりと観光でもしたいところだが、すぐさまリンクの消息を探しに商店や家々を訪ね歩いた。本人は見つからなかったが、彼の家はすぐに見つかった。

 村の端、橋を渡った向こう側にぽつんと立っている赤い屋根の家だという。しかし村人たちは一様に「最近はずっと不在だよ」と首を横に振った。

「本当に不在かどうかは、確認するまで信じません……!」

 一人で橋を渡って家に近づくと、確かに長らく手入れされていない丈の長い草が歩くのを邪魔する。だがその一面の雑草の中を何者かが踏み歩いたか細い獣道のようなものが確かにあって、それは律儀に扉まで続いていた。これが獣なら随分と人に慣れた器用な獣だ。

 真新しい泥の足跡が玄関の敷石の上についていて、明らかに人が出入りしている形跡がある。だが周辺住民が見ていない、住人は帰ってきていないと言うのであれば、導き出される答えは一つしかない。

「彼は夜中に行動しているということですね。つまり今の時間帯は、ここで寝ている可能性が高い!」

 扉の前で生唾を飲む。寝ているところを起こしてしまうは少し可哀そうな気もした。でも真夜中に人目を忍んで出て行く現場を抑えられる気もしない。

 随分と迷った末、私は静かに扉をノックした。

 コンコンコンと。もし寝ていたらごめんなさい。でも起きているのなら元気な顔を見せて欲しい。

 しばらく耳を澄ませてみたが無音だった。もしかしたら今日は帰って来てないのかもしれない。

 幸いなことに彼の家はハテノ村の祠の目と鼻の先だ。再び訪ねるのには全く問題のない距離だった。

「また明日も来ますからね、リンク」

 と、扉に向かって呟いた瞬間。

 ドガシャン! と建物の中から音がした。

「?!」

 明らかに誰かいる気配がある。誰かなんて、この状況では思いたる人物は一人しかいない。

 意を決して扉に手を掛けると、何と鍵はかかっていなかった。不用心だと眉をひそめながら、でも好機を逃すつもりはない。一気に扉を押し開ける。

「いるのですか?」

「ひめさま、……え、ほんと? 本物?」

 扉の右横すぐのところに、尻もちをついたリンクが青い目を丸くしていた。どうやら階段から落ちたらしい。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。姫様の声が聞こえた気がして、ちょっとびっくりしちゃて」

「そうじゃなくって!」

 聞きたいことはいっぱいあった。

 なんで私に一言もなく消えてしまったのか、どうして半身でもある退魔の剣を置いていったのか、帰ってきたハテノ村で居ない振りをしているのか。聞きたいことは山ほどあったが、それらはまるっと喉の奥に引っ込む。

 全てを差し置いてまず口を突いて出た疑問は、彼のいまの姿格好のことだった。

「その恰好は一体なんです?!」

 角が生えた何かの動物の頭蓋骨で出来た禍々しい兜、背まで垂れた赤い毛束、触れれば怪我をしそうな刺々しい手甲、決して手入れが行き届いているとは言えない毛皮、極めつけは彼の肌にのたうつ紫のボディーペイント。腕や足のみならず、腹にまで不思議な文様を描きこんで、しかもよく見れば体は泥と返り血も微かについている。

 怪我をしている様子はないが、それでも十分に酷い恰好といっていい。しかしリンクは青い目を輝かせて屈託のない笑みを浮かべた。

「これ、フィローネに昔住んでた蛮族たちの装備です。コレ着て戦うと、血が騒ぐのがちょっと落ち着くんです」

「血が、騒ぐ?!」

「そうなんです。なんか俺、姫様と一緒にいたら変なんなっちゃったみたいで……」

 しゅーんと申し訳なさそうに不安そうに、彼は尻もちをついたまま綺麗な視線をスっと逸らす。やはり剣の精霊の言う通り、どこかに不具合を抱えているらしい。

 でもまだこうして話が出来るならば大丈夫のはず。私は彼の隣に膝を付いて目線を合わせるように顔を覗き込んだ。

「どう変になったか教えてください。お医者様に診てもらったらきっとよくなりますから」

 でもリンクはうーんと唇を突き出して言葉を渋る。

 渋って渋って、でも私が頑固な性格だというのだけは思い出していていたらしい。私とリンクしか居ない家の中で、さらに声を一段低くして背を丸めて小さくなった。

「あの、他の人には内緒にしておいて欲しいんですけど」

「確約はできませんが、出来る限り私が何とかします」

「姫様、あの、笑わないでください。……俺、俺のちんこが変なんです」

「えっ、あ、……ちん…………?」

 一体何を言ったのか。理解が追いつかずに語尾を濁して聞き返す。だがリンクは口を開いてはっきりと発音した。

「ち・ん・こ。俺のちんこ、なんでか分からないんだけど姫様のお傍にいると、ぎゅって硬く腫れるようになっちゃって」

「硬くなる」

「もうカッチカチです」

「かっち、かち」

「最初は一緒にいるときだけだったんだけど、そのうち姫様のこと考えるだけでめちゃくちゃ腫れるようになっちゃって、腰までむずむずして歩きづらくって」

 この人は男性にしては綺麗な顔をしているのだが、そこから繰り出される『ちんこ』という単語の威力たるや。何語で何を話しているのか、回らない頭で私は必死に考えた。

 ちんこ、たぶん陰茎のこと。そこまではなんとか理解が出来た。本人もじっと自分の股間を見ていたし、心なしか丈の短い腰巻がのっそり持ち上がっているようにも見えたので。

 だが硬くなるとは一体どういうことか、それには少々理解に時間を要した。

 固くなる、陰茎が硬くなるとはつまり勃起すると言うこと。男性の陰茎が勃起する、しかもその原因が……私? えっと、我が騎士よ、少しお待ちください?

「あのリンク、ちょ、ちょっと待ってください。その、陰茎が?」

「いんけい?」

「お、おっ、おちんちんが! これまで硬くなったことは無かったのですか……?」

 しょんぼりとした顔で、彼は自分の股間を駄々っ子の頭みたいに撫でた。

「百年前から時々ありました。でも大体ライネルやヒノックスと戦うときとか、軍で騎士五十人、百人抜きしろとか無茶言われたときだけです。だから戦ったらすっきりするかと思って、攻撃力が上がる蛮族装備で夜な夜な戦いまくりました」

「戦ってすっきりさせようと?」

「最初のころはすっきり寝られるようになったんです。でも最近はもう全然ダメで。今も姫様が前にいるからちんこ痛いぐらい腫れてるし、俺こんなんじゃもう姫様のことちゃんとお守りできない。でも本当はお傍でお守りしたいんです。俺、どうしたらいいんでしょう?」

 人間は理解不能な事態に陥ると、思考を手放すことしかできなくなるらしい。しょぼくれた彼を前にして、私はたっぷり二十数えるぐらいは呆けていた。

 知る限り、彼は私の一つ上十八歳のはず。稀にそういう経験が遅れる男性もいるとは聞いたことがあったけれど、実際に、しかも身近に存在していたとは思ってもみなかった。頭を抱えるしかない。

 だが、それでも、一応ちゃんと聞いて確認しなければならない。本当にそうなのか、曖昧な言葉でごまかしてこれ以上の混乱を煽るのはよろしくない。

 これは医療行為、医療行為と何度も頭の中で唱えながら、裏返る声を必死で抑え込んだ。

「あの、リンク。一つ質問しますが、これは性的な意味ではなく医療的な意味での質問です」

「はい」

「射精したことありますか?」

「……しゃせい?」

「大丈夫です理解しました」

 その圧倒的な間が何より明白な答えですから。

 つまり彼は今をこの瞬間ですら、この圧倒的強者の肉体をもってしても、どうやら大人の男性とは言い難い状況らしい。まさかまさかの事態である。

「リンクは未精通なんですね……」

「みせいつう?」

「一度も射精をしたことがないことです。その、お、おっおちんちんから、何か出たことがないですよねっ?」

「ありますよ? おしっことか」

「おしっこ以外のものです」

「おしっこ以外が出たら大変ですよ」

「おしっこ以外出たことがないから今大変になっているんでしょう!」

 思わず声を荒げてしまったが、半分ぐらい呆れた様子の剣の精霊の様子にも納得がいった。

 幼い頃からの父の不在、男兄弟はなく、若くして軍に入って剣の修行に明け暮れる日々、そこに拍車をかけたのは勇者という完璧を求められる立場。たぶん誰にも聞けなかったのだろうし、誰も話を振らなかったのだろう。さらには百年間の眠りでそういった俗世の記憶もさっぱりと失われ、まるで童のごとき純真な彼。

 生きて十八年と百年飛んで約一年、今までどこにもそのようなことを知る機会がなかったのだ。剣の精霊が『自分のせい』とため息を吐きたくなる気持ちも、少しだけ分かる気がする。

 分かる気はしたが、こればかりは誰のせいでもない。三%も責任を感じなくてもいいと思う。私も呆れて先ほどまでの張り詰めた自責の念をどこかに放り投げた。

「ちなみに退魔の剣を置いて行ったのはなぜです?」

「だって、俺がちんこ痛いって真面目に悩んでるのに、ファイは馬鹿にするから……」

「剣の精霊は知っていたのですね」

 ならば教えてあげればよいものを、あの剣の精霊はどうやら人間の俗物的な部分にはあまり関与しないらしい。はぁー! と肩を落として大きな息を吐き出す。

 さてどうしましょう。

 今この瞬間も、純真そのものの勇者は曇りのない眼で私を見つめていた。自分の陰茎の不可思議な状況を打開してくれると信じ切った無垢な瞳だ。

 果たして「秘密にする」と言ったものの、今の彼を医者に見せるのは恐らくそう難しくはない。私の手には負えない、お医者様に診てもらえばよくなりますよと、言いくるめて連れ帰るのは何ら難しいことではない。

 しかし必要なのは治療などではなく、自分で射精の仕方を教えてもらうことだ。しかも自然な流れに従ってすでに半分ぐらいまでは来ているので、本当は本人が自ら気が付くのがいいのだろうけれども。そんな悠長に待っている時間はあるのだろうか。

「姫様、俺のちんこが腫れるのは何の病気なんですか? しゃせいって、それどういう病気なんですか? 何倒したら治りますか?!」

 前言撤回、たぶん時間はない。退魔の剣の代わりに、ライネルが持つような大剣が転がっているのが見えてゾッとする。

 疲労感や命のやり取りを強いるような緊張感での生理的興奮と、性的な興奮の違いも分かっていない彼を今放置すれば、最悪ハイラルの生物が滅びるまで狩りを続ける可能性すらある。しかも彼の性的興奮の対象は、幸か不幸か私自身。

 ならば手ほどきをする配役を断ることなどできなかった。

「仕方がありません、貴方のそれは私が何とかします」

「ありがとうございます! さすが姫様、治し方をご存知なんですね」

「えっ、ええ、一応……書物でならば読んだことがありますから」

「お願いします、俺のちんこ治してください!」

 かくて私は無垢すぎる勇者の手を引いて二階に上がった。彼の自宅はよほど古い家なのか、階段は一歩ごとにぎしぎしと音を立てる。

 まるでこれから起こることを暗示しているような音に耳を塞ぎたくなるが、リンクの方はのんびりとあくびを噛み殺していた。

「眠いのですか?」

「ずっと昼夜逆転してたので」

 だからといって陰茎をふっくらと勃起させたまま寝ないでくださいリンク。

 早く始めるしかないと思って、無言でずんずん階段を上がった。そして上がり切ったところで、背後でぼんやりしている彼をポンと放り投げるようにしてベッドに放る。

「まずはその装備を脱いでください」

「へっ、脱ぐ?! はだかッ?!」

「そうです、裸です!」

「姫様がえっちだ!」

「四の五の言わずにその服を脱ぎなさい!」

 はじまりの台地を出るまでパンツ一枚で遊びまわっていた人が、いまさら羞恥を訴えても聞く耳は持たない所存。

 渋々脱ぎ始めた彼の腹と腕と脚と、刻まれた異様な文様を睨みつける。本当は男性の裸体を直接と見ることだって私は初めてで、あまつさえそれが昔から恋焦がれている人であるという事実には必死で見て見ぬふりをした。

 さほど大きくない身長なのに、全身が余すところなく引き締まった筋肉で覆われて、幾たびも重なり付いた傷痕が彼の戦いの歴史を物語っている。それだけでも十分に男性らしいと思うのに、原料もよく分からない顔料を自分の肌に塗るなんて本当に呆れてため息も出ない。

「下も脱ぐんですか……?」

 角のついた兜も服も何の骨で作ったのか分からない小手も全て取り払い、短い腰巻き一枚の姿になったリンクがベッドの上で正座していた。思わずフッと笑みが漏れる。不安そうな上目遣いが私の出方を伺っていて、まるで親から引き離されたばかりの子犬みたいになっていた。

「今はそれでよしとします」

「はい」

「治し方は教えてあげますが、次からは自分でやるんですよ」

「一回でちゃんと覚えられるかなぁ」

 心配ご無用、私だって単純刺激しかやり方は知りませんから。

 不安そうにうつむいた瞬間を狙って、えいっとベッドの上に体を押し倒す。触れた体に上から覆いかぶさると、じんわりと体温を感じる。むしろ私の方が、口から心臓が飛び出さないように呼吸を整えるのに必死だった。

「姫様。あの……、えっと? これはいいんですか?」

「今から私に逆らってはいけません。いいですね?」

「う……」

「我が騎士リンク、お返事は?」

「はい」

 本当はもう騎士と姫の間柄ではない。国は滅びてしまったし、彼は騎士と呼ぶには少し情緒が幼すぎのだけれど。この際、細かなことはどうでもいい。

 リンクをどうにかすると言ったのは私だ。だったらもう手段を選ばない。この後、事がどのように転ぼうが構いやしない。

「どうやら貴方は、騎士としての役割と全うしようとするあまり、男性として大事なことを知らずに来てしまったようなので」

 言葉は確実に頭まで届いているのだろうが、たぶん意味は分かっていない。リンクは青い瞳をまぁるくして困り顔で首を傾げていた。

 そうね、分からないでしょう。それが勇者という役割を演じるための犠牲にして来たものだと言うのなら、一方でそのように仕向けた原因は女神ハイリアの血を受け継ぐ私にも少なからずある……とはあまり思いたくはないけれど、今はそういうことにしておく。

 ならばこの身をもって教えてあげるのが私の役目。おもむろに彼の両足の間のふくらみを腰巻きの上から柔らかく触れた。

「んんっ♡ ん……?」

 すぐさま鼻から抜けるような甘い声が出て、しかし声を出した本人は何が起こっているのか分からないままびっくりしてこちらを見ている。それがまた無垢な赤子のようで、無性に可愛らしく見えた。

「これが貴方を困らせている原因です」

「姫様、なんか、これへんっ…♡ …ふっ、あっ……?」

「変じゃありませんよ」

 口を塞ごうとする手を退かし、「あれ? え?」と戸惑う口をそのままにさせる。んーんー? と彼は、自分の体に起こりつつある未知の感覚に困惑しながら、悩まし気な息を吐いた。

 どうしてこんなことに至ったのか、あとでインパになんて説明したらいいか困り果てる。でもその間も、リンクの下半身に熱い血潮が集まっていくのを手のひらで感じていた。

 どうも腰巻の下には何も履いていないらしく、一枚布を隔てた向こう側に相当しっかりとした盛り上がりがある。触れる前からすでに誇張し始めていたそれは、私の手の動きに合わせてさらに大きくしっかりと付け根から立ち上がってきた。

 あまりの膨張速度に驚きつつも、これならばなんとかなりそうとホッとする。ところがリンクの方は切なそうな息を吐き出しながら、ますます不安そうに眉をひそめる・

「姫様、まって、姫様! もっと腫れがひどくなってます!」

 しばらくは私にされるがままに愛撫されていた彼だったが、さすがに自分の陰茎の変化に動揺して起き上がる。そうして二人して問題のモノがある彼の股間をまじまじと見た。

 いつの間にか腰巻の布の隙間からは、書物で見た以上の立派なイチモツが飛び出ている。やはり蛮族にはもともと下着をつける習慣はないらしい。そそり立つ彼の立派なモノはもはや腰巻では覆い隠すことができなくなり、小刻みに震えながらぎゅうぎゅうに上を向いていた。

 もちろん私にとっても初めて見る男性の性器。まさかこんなふるふると震えるようなことがあるなんて、やはり百聞は一見に如かずというものか。

 しかし立派に立ち上がったそれは色が少しばかり紫っぽくなっていて、握りしめて鬱血してしまったかと慌てて手を見る。私の手のひらもうっすらと紫色の顔料で染まっていた。

「これは、ボディペイントの?」

「汗で落ちちゃったのかも」

 下腹部に伸びていたボディペイントが汗で溶け出して、私の手の動きに合わせて腹から股の方へ滴り落ち始めていた。

 力を込めすぎてチアノーゼになったわけじゃない……よかった。

「だ、大丈夫のはずです」

「はずって、姫様治し方知ってるんじゃないんですか!」

「私だって男の人のおちんちんを見るのは貴方のが初めてです!」

「ええっ、そんなぁ」

 リードしてくれるのって、普通は男性側じゃないかしらと内心で首を傾げる。しかしまるで性知識がない彼には高望みどころの騒ぎではない。

「さぁ、続けますよ……!」

 それ以上の反論を許さず、今度は右の指でゆるく輪を作って立ち上がった竿を包み込んだ。熟れた桃みたいにぷっくりとした先っぽからは透明な液体が溢れ出てきて、それを指に絡めながら上下させるとリンクは気持ちよさそうに唸る。

 泡立つ液が少し紫色なのは気になるが、熱い陰茎も気持ちよさそうに赤らんでいる。反対に竿の付け根の陰嚢は黒っぽくて、少年と大人の男性が隣り合わせになっているみたいで興味深かった。

「あっ……はっはぁっ♡♡ ひめっ……なんか、だめです……んっ♡」

「書物で見たことがある形状だから大丈夫です、今のところ同じです」

「ちんこがぁっ……うっ…あ、ついぃ……っつ♡」

 硬度と質量を増していく竿を握って擦り上げながら、これは『介護の一種では』という疑問には蓋をした。次第にせり上がっていくリンクの吐息に、やり方自体は間違っていないと無駄な確信だけが深まっていく。

 得体のしれない感覚に支配されていく彼は、青い瞳がうるうるさせながら私を見上げていた。

「怖いですっ…、ちから、がっ……ふっ、うぅ♡ …はいんなァ…っ♡♡」

「辛かったら寝っ転がっていてもいいですよ」

「うっ、ンふっ♡♡ ひめさまの、手………すごい、っ……あっふあっぁ……♡」

 ばたんと硬いベッドに体を打ち付けて、リンクは大きく口で呼吸しながら目元を腕で覆った。ひゅうひゅうと荒く息をする喉元にはしっかりと喉仏が上下しているのに、口元はあどけなく飲み込み切れなくなった涎が垂れている。何とも言えないコントラストだ。

 緩く開いた内腿が時折大きくヒクつき、そのたびにさらに陰茎が熱く硬くなっていった。体温がぐんぐんあがり、汗が噴き出して塗り込めていたボディペイントが次第に落ちていく。

 ハイラルで一番頑健なはずの肉体が私の手一つに抗えず、悦びの悲鳴を上げていた。

 一方の私は男性性器の形状観察や膨張率にひたすら感心することに務めた。最初に触れた時はまだ手の平に収まる程度だったはずが、今や片手では収まりきらないほどに大きく硬くなっている。元気に反り返ったそれが、本来は女性性器に収まるのだと考えるとじゅんと自分の身の内も潤むのが分かる。

 でも今は私の躊躇や羞恥は横置きして、リンクのこれをどうにかして一回達するまで導かなければならない。無駄なことを考えている余裕ではなく、必死で手を動かした。

 すがる思いで扱きながら彼の陰茎を眺めていると、リンクは半泣きになりながら私の服を掴む。

「あぁっ…ひ、ひめさまっ………ふっあぁっ♡♡ …んっ、なんか、出ちゃっ……♡」

「気持ちいいですか?」

「きもちっ……いぃっ………っ? これ、だめっ…あっ♡ あっ♡♡、気持ちいいのっ……こ、れ?」

 ようやく与えられている刺激が気持ち良いものだと認識したリンクは、ぶわっと茹でオクタの様に耳まで赤くなった。ここまでしないと感覚が結びつかないとは、我が騎士殿の体は意外と鈍感なのかもしれない。

「出していいんですよ」

「やっ、おしっこみた……なんか、でちゃ♡ でちゃうっ………ッ♡♡」

「がんばってリンク」

「はいっ……がんばっ…あっあぁっ、らめっ……かもぉっ♡」

 場違いな声援とその返事だが、ツッコミはいない。だが私にとっても彼にとっても、初めての頂はもうすぐそこで、互いにそこに行きつくために必死だった。

 いよいよ切羽詰まった息遣いになり、腰ががくがくと揺れた。無心で硬く濡れそぼる竿を扱くと、彼は私の服に縋りながら小さい子供みたいにぎゅっと目をつぶる。

 その次の瞬間、背を弓なりにそらせると、空を噛んだ。

「やっ、あっ……ッ…あっあーッ♡♡♡」

 ぶるぶると陰茎が暴れ、滲んだ腹のボディペイントが何度か大きく歪んだ。ぎゅうっと収縮した陰嚢が中から透明な液体を押し出す。それは二階のロフト部分の端まではじけ飛んでいった。

 精液は白いと医学書にはあったが、リンクの初めての精液はほとんどが無色透明な液体だった。もしかしたら最初だから、液としてまだ完成されていないのかもしれない。などと努めて冷静に観察する。

 改めてこの状況を見直すと、男性の初めての射精など普通は見られるものではないはずだから、非常に貴重な経験ができたようにも思う。……たぶん、きっと?

 ただ噴き出した精液は到底片手で収まりきるような量ではなく、慌ててもう片方の手も添えたが、ベッドから大きく飛び出して床に細長い地図を描いた。数度の射精の後、あれほど硬くなって彼を不安に陥れていた陰茎は医学書の通り、ふんにゃりと柔らかくなって私の手の中で下を向いた。

 はあはあと全速力で走った後のような呼吸音が達成感を煽る。リンクはしばらく焦点の合わない顔がぐったりと虚空を眺めていたが、私が思わず可愛らしい亀頭を撫でるとびくっとして体を起こした。

「え、ぁあ……うわぁ…………?」

 自分の体から溢れたものが一体何なのか理解できない様子で、しばらく自分の陰茎を眺めていた。

 疑っているわけではなかったが、どうやら本当の本当に初めてのことらしい。

「こうして精液を出すのが射精です」

「しゃせい……」

「陰茎……えっと、おちんちんが硬くなるのは精液を出すための準備段階、と言えばいいのでしょうか。男性はみんな通る道と聞きますから、別に恥ずかしいことではありません。でもあまり他人にやってもらうことではなくて、一般的には自分でこっそりやることだと思います」

 話しながら何の気なしに手を顔の近くに持ってきたが、不思議と匂いはあまりなかった。青臭い匂いがすると聞いたことがあったけれど、これは個人差だろうか、それとも初回特典だろうか。

 しかしさて、このべとべとの手をどうしましょうと考えていると、リンクはむっくりと起き上がって首を傾げる。

「どうして、せいえきって出るんですか? 姫様も出るんですか?」

「私は出ませんよ! 女性は出ません、男性だけです」

「わっ、そうなんだ……。でもなんでこんな汁がいっぱい出るんですか?」

 先ほどまでの猛々しさが打って変わって大人しく項垂れた自分の陰茎を弄びながら、リンクは眉を八の字にして首を傾げた。

 なんで。どうして。

 純粋無垢な子供の質問に親が困るとはよく聞く話だが、まさか自分の騎士に困らされるとは思わなかった。しかも私だって男性と関係を持ったことは無いし、それどころか本当はキスだってしたことがない。なのに好きな人の射精だけ手伝うなんてどんな罰ゲーム。

 そこへ追い打ちをかけて来るリンクは、もう第二厄災と呼んでも差し支えないのではないだろうか。しかも私が疑問に答えてくれると信じてやまない清らかな瞳が、またしてもキラキラと私を見つめていた。

 コホンと咳ばらいをする。

「精液とは、その、つまり、子種です」

「こだね? パン種の仲間?」

「あ、赤ちゃんを産むための、貴方の大事なものですよ!」

 食欲と戦闘しか頭にないのですか、この人は!

 と、怒りかけたのだが、さすがのリンクも目を丸くして固まっていた。

「えっ……、あかちゃ……ん…?」

「その、おちんちんが硬くなるのには確かに疲労や戦闘などの要因もありますが、本来は性的興奮によって硬くなると言われています。ですから私を見て、そのっ、貴方のおちんちんが硬くなっていたのは……っ」

「俺のちんこが硬くなってたのは、つまり俺は、姫様と赤ちゃん作りたかったってこと?!」

「結論が一気に飛躍し過ぎていますが、そういうことですねッ?!」

 頭がいいのか悪いのか、そこまで話をすっ飛ばしても理解できるポテンシャルだけは認めたい。

 子供の前に口づけが欲しいとか、さらにそれ以前に愛していると言葉が欲しいとか、さらにさらにそれ以前の問題で私は彼と手を繋いだり抱きしめ合ったりもしたことがないのだけれど。一切合切、そういったことを全てすっ飛ばして出た結論に、私の方も頭が沸騰して熱くなる。

 だから勢いつけて、あらぬ誤解がこれ以上進む前に私の方も口を開いた。

「私だって貴方のこと好きですからね?! 好きじゃなければこんなことしませんからっ」

 言ってしまった。

 ああ、ついに言ってしまった。

 百年ほど大事に心にしまい込んであったはずの恋心なのだが、甘酸っぱい思い出など鈍感の極致にいる彼相手には何の役にも立たない。というか、この機会に強引にでも押し進めなければ、未来永劫関係が進展しない気がして逆に腹の底に力が入った。人間って腹をくくると大抵のことが言えるものなのですね。

 案の定、リンクはぽかーんとしてから、「え、えぇ?」っとフクロウみたいに首を左右にぐりぐりと回す。よくもまぁそこまで回せたものだと思っていたら、はっと彼は息を飲んで居住まいを正した。

「つまり、姫様も赤ちゃん、作りたい……?!」

「いずれは! いずれはですよ?!」

「でもだとしたら姫様」

 彼は非常に真剣な面持ちで腕組みをした。まったく冗談を言っている様子はないので、なおさら次の言葉には頭痛がするようだった。

「俺、赤ちゃんの作り方が分からないから、どっかで調べてこないと」

 これが冗談ではないのだから質が悪い。

「待って、待ちなさい」

「はい、待ちます」

「もういいです、それも今から教えます」

「さすが、姫様は物知りだ。すごい」

 言ってしまってから、ああもう! と自分の性分と彼の悪意のない誠意を恨んだ。教えると言うことはつまり、二人で事に及ぶと言うこと。私にとってはもちろん初めてだが、リンクにとっては初めての射精の後に初めての性行為。

 こんな無茶苦茶なことがありますかと頭を掻きむしりたくなる。でもこのままだとリンクは文字通りハイラル各地に赴いて、知り合いと言う知り合いに性行為のやり方を聞いて回りかねない。無垢とはげに恐ろしきもの。

 幸いも二人きりで、ベッドに居て、しかも相応の家の中。問題があるとすれば、インパが私の帰りを心配することぐらいだが、カカリコ村からハテノ村までは馬でも優に一日ほどかかる。彼を連れ戻すための説得をして一晩泊めてもらったと言うぐらいの悪だくみはすでに抵抗は無かった。

 おもむろに村娘の服を脱ぎ始める。帰り道はこの服を着ていくのは間違いのないことなので、すでにリンクにしがみつかれて皺になっていたが、これ以上汚すことはできない。

「姫様も脱ぐのですか?」

「脱ぎますよ、リンクも腰巻き脱いでください。脱がなければできません……たぶん」

「たぶん?」

「私だって初めてなんですから!」

 当然、誰かと行為に及んだことなどないし、知識としてあるのは医学書の内容と姫として少しだけ教えられた褥の作法だけだ。それでも純粋培養の勇者殿よりかは相応に知識があるようだったし、少なくとも自分の体の様子はある程度は心得ていた。

 身に着けていた下着まで全て脱いで畳んでベッドサイドのチェストの上に置くと、意を決して振り向く。リンクも今度こそ間違いなく生まれたままの姿になって、眩いばかりの笑顔でベッドの縁に腰かけていた。

「うわぁ姫様、お綺麗です」

「あ、ありがとうございます」

 こう言うところが天然の人たらしだから侮れない。

 しかも先ほど初めての射精を終えたばかりの彼の陰茎は、すでに緩く立ち上がり始めていた。さすが勇者、回復力が高い。

 リンクは本能のように両腕を開いて私を腕の中に招き入れると、膝に座らせて体の形を確かめるようにゆっくりと手のひらで愛撫した。殊更ゆっくり、時折指の先に力が入ってふにっと肉に食い込む感覚を楽しんでいる。

 何も言わなければ本当にそれだけで、いつまで経っても何も進まなかった。やむを得ず、彼の麦藁色の髪を撫でながら顔をこちらへ向けさせる。

「リンク、あ、あの、口付けをしてください」

「口付けしていいんですか?」

「好き同士なら構わないかと」

「あ、そっか」

 初めての口付けがまさか裸だなんて思っていなかったけれど、互いに触れた唇はとても柔らかかった。ちゅっちゅっと音をさせて軽く羽のように啄む。リンクはただひたすらそれを繰り返すので不思議に思ったが、はたと思い出す。

 そうだった、彼はその手のやり方を全く理解していないのだった。

 つまり口付けと言えば、子供の前で父母が交わすような『いってきますのキス』ぐらいしか知らない。百年前ならいざ知らず、すっかり忘れている可能性は十分に考えられる。なんとここへ来てもまだ私がリードしてあげなければいけないなんて。

 と言っても私だってやり方を知っているわけではないので、まずは小手調べに唇を少し舐める。するとやはり予想外だったのか、びっくりして口が半開きになった。すかさず隙間から舌を差し入れる。

「んんぅッ?!」

 色気も何もあったものではない。でもしょうがない、いずれ覚えてもらえたらそれでいい。

 優しく舌を突いて絡ませると、彼の方も「そうするもの」だと理解したのか次第に分厚い舌を伸ばして私の唾液をすすった。互いに舌を味わいながらも、悲しいかなその甘さに浸っている暇はなく頭をフル回転させる。次なるステップは互いに触れることのはずなので、隙を見てリンクの右手に手を重ねた。

 そのまま有無を言わさず、ゆっくりと彼の手を自分の胸のふくらみに重ねてやる。するとやはりそればかりは本能なのか、柔らかさを確かめるように彼の手が私の胸を揉み始めた。

 少しカサついた指の先がやわやわと揉む位置を変え、ついには胸の飾りに指が掛かる。すでに硬くなっていたところを見つけるや、リンクは私の胸の飾りを指の中で遊びはじめた。本能とは本当にすごい。

「……あっ」

「姫様?」

「続けてください、……んっ、こうしてお互いの体に触れて、気持ちを高めあうらしいので……っん」

「じゃあもっと触れていいんですか?」

「そう、ですね……あんっ♡」

 許しを得たことに安心したのか、リンクの指は大胆に私の体をまさぐるようにした。胸の柔らかいところと硬いところをくりくりと圧し潰し、お尻や太ももに指を沈ませる。その間も首筋や胸にまでちゅうちゅうと吸い付いて、最後はぱくりと乳を口に含む。

「ひゃっ♡」

「ここ、姫様、気持ちよさそうだから」

 よくもまぁ見ているものだ。でもその洞察力は一体どこで培ったのかと聞けば、「祠の試練」と言い出しそうなので聞かないことにした。

 たっぷり唾液を絡めた舌で、くにゅくにゅと私の乳首を舐めて吸って。まるで大きな赤子の様だったが、ちらりと見えた陰茎はすでに先ほどと同じぐらいまで立ち上がっていた。だらだらとまた涎を垂らして、隙あらば私の体にそれを押し付けてくる。

 だがそこまでしても、やはり彼は私の中心までは手が伸びてこなかった。やはり具体的に何をどうするかは全く理解していない。

「リンク、手を」

「はい」

 元気よく伸ばされた右手をゆっくりと自分の秘所に宛がう。はしたないことだとか、そういう感情は捨てた。

 くちゅっと音を立てて触れた私の両足の間に、リンクはびっくりしてまた目を丸くする。

「ちんこがない!」

「えぇ……」

 そこから説明が必要ですか。

 性行為について、先にもっとヒアリングをしておいた方が良かった。――と今更嘆いて後の祭り。色気も雰囲気も台無しにして、それでも彼と体を繋げたいと思える自分の気持ちに、もはや笑いが込み上げてくる。

 こんなにどうしようもない男なのに、どうしてなかなか諦めて放り出そうと言う気になれない。かえって、私以外の誰がこんな人の面倒を見るのだろう。ライバルの少なさに安堵するほどだ。

 たぶんプルアに言わせれば、ダメ男に引っかかる典型例なのだろうけれど。仕方がない、そういう星の元に生まれついたとでも思うことにした。

「女性はないんですよ。その代わり、そこに穴があります」

「ん、穴?」

 しばらく私の秘部を前後にまさぐっていた中指が、私のちょうど真ん中あたりに潜り込む場所を見つける。幾重にも重なる肉の襞を掻き分けて、リンクはそこに中指を沈みこませた。

「うわっ、ほんとだ」

「やんんッ♡ ……これが、男性と女性の違いです、……あぁっ♡ リンク、男の人には棒があって、女の人に穴があるということは?」

「……はっ、棒を、入れる?!」

 正解の代わりに硬い麦藁色の髪を撫でると、彼は嬉しそうに喉を鳴らす。犬ですか。いやこの際もう犬でもいい。このまっさらな勇者を自分好みに育て上げられるならば、それもまた一興というもの。

 リンクはすでに臨戦態勢になって血管の浮き出た自分の竿を何度か手で扱きながら、私の股とを見比べて「ふわぁ……」と謎の感嘆の溜息を吐いた。ようやく自分の陰茎が何のために固くなっていたのか理解に至ったらしい。

「俺のちんこを姫様の穴に入れてもいいんですか?」

「で、出来ればもう少しほぐしてほしいです。最初は痛いと聞きますし」

「分かりました」

 すぐさま私の中に入ってくる指が二本に増やされて、内側の壁を確かめるようにトントンと動かす。胎の中の少しざらついたところを見つけられると、私の体も得も言われぬ快感が走り抜けた。

「んっあぁっ……♡」

「ここ、気持ちいいんですね」

 聞きながら止めてくれない指が、返事のできない私をとことんまで追い詰める。代わりに彼のたくましい首に腕を回して絡めとると、しゃにむに深い口付けをした。

 互いの荒い息遣いと卑猥な水音と、リンクに擦りつけられた腹が異様に熱を持つ。熱い。熱い?

 確かに彼の体温は大人のそれよりもだいぶ高くて、まるで小さな子供みたいにポカポカとはしていたが、何となくそれとは違う気配があった。じりじりと内側から身を焦がすような、それでいて今彼から与えられている快楽に拍車をかけるような。気持ちはいいけれどもじれったくて、跳ねそうになる腰をどうにか抑えながら身をよじる。

 唇を離してつぅっと伸びた糸が切れたところで、自分のお腹と胸の辺りに目をやってハッとした。

 互いの汗でだいぶ薄まった紫の文様が私の肌にも写り込み、リンクの陰茎に至っては全体がうっすらと紫色になるぐらい顔料に濡れていた。

「顔料が」

「ごめんなさい、姫様にもついちゃった。あ、でもコレ食べられるものだから大丈夫です」

「たべられる?!」

 自分のお腹についた紫色を指で掬う。独特な匂いがしたが強い臭気があるわけではない。だが『食べられる』と言う言葉で何となく嫌な予感がした。

 色と匂いから微かな記憶を遡り、百年前に大臣が食べていたケーキを思い出す。あれはたしか、魔物から作ったエキスではなかっただろうか。

「このお腹に描いたのは、マモノエキスにちょっと混ぜ物をして」

「マモノエキス」

「塗ると攻撃力が上がります」

「攻撃力」

 一体何の攻撃力だと言うのでしょうか。

 いま貴方が自分の左手で扱いている武器は十分攻撃力があると思うのだけれど、それ以上に攻撃力を上げたら一体どうなると言うの。もしかして手に負えなくなるのは、受け止める側の私ではないかしら。

 肩で息をしながら嫌な予感がしてリンクの顔を覗き込む。先ほど初めての射精をしたとは思えない様子の男が、とろりと甘い笑みを湛えて私を見下ろしていた。

「ひめさま……俺、も、入れたい……♡」

 うっすら目を細め、はあはあと切なく息を切らす。一応は許しを待ちながらも、下半身は暴発寸前のそれを、私のぐしょぬれの花びらに押し当てて動かしていた。ちゅっちゅっと音を立てて首筋に吸いつき、腰は待てができずにゆるゆると前後している。

 そういうところは教えなくても体が知っているなんて、男ってなんて都合のいい体をしているのか小憎らしい。

「ゆっくり、優しくしてくださいね」

「はーい」

 良い返事と共に太ももを押し開かれ、大きな質量の物が私の中に押し入った。

 さすがに息を止め、メリメリと体が押し開かれる衝撃に目をつむる。初めての時、女性はだいたい痛いと聞くが、リンクがそれを知っているとは到底思えない。

 彼は衝動に任せて奥まで無理矢理押し込むのではと体をこわばらせたが、思っていたほどの痛みは無かった。後日分かったことだが、これはマモノエキスのありがたい効果で、予想外に私の方にまで効き目があったらしい。

 しばらく進んだり戻ったりをしていたリンクが、あるところで動きをぴたりを止める。互いの恥骨が触れ合う距離になっていた。

「はっ……入っ、たぁ………あっ♡」

 嬉しそうに報告しながら、リンクはゆるゆると腰を動かす。何も教えていないのにそういう動きだけは生得的らしく、トントントンとリズミカルに腰を叩かれた。

「あっやっ♡ ……ぁっ、りんっくっ♡ んんっ♡♡」

「かわい…、はぁっ♡ 姫様、かわいい♡」

 もう何も教えなくとも、自分のいい様に動いていた。じゅぷじゅぷと音を立てて陰茎を抜き差しし、時に奥へ擦りつけたり、ギリギリまで引き抜いて遊んでみたり。しかも私の方は程よく効いているマモノエキスのせいで痛みはほぼなく、適度な快感でいっぱいいっぱいになっていた。

 ところがリンクはある瞬間はたと動きを止める。どうしたのかぼやけた視界で手を伸ばそうとしたが、彼の興味は互いの継ぎ目に注がれていた。私と繋がっている部分を食い入るように見て、何を思ったか私の側に触れる。瞬間、ぴりりっと電撃が走って、自分でも分かるほど中に収まっていたリンクを締め上げてしまった。

「ひゃぁっあ♡♡」

「うわわっ♡」

 意図して膣の内側を動かすなんて私にはできない、本当に反射的な収縮といっていい。私は何も悪いことはしていない、むしろ敏感なところに不用意に触れたのはリンクの方。

 なのに彼は突然襲ってきた強いの刺激をやり過ごすと、組み敷いた私を困ったように見つめて苦笑する。

「ひめっ………そんな、しめつけたら……おれ、すぐっ、出ちゃうよ……♡」

「リンクが、触るからっ、やっあっ……ですよ……!」

「俺のせい?」

「貴方のっ、せい!」

「そっかぁ、俺のせい……でっ、こんな、姫さま、はっ…かわいんだぁ……♡」

 なんて酷い言いがかり。誰のせいで初めてがこんなことになっていると思っているの。

 怒りたかったけれど怒っても埒が明かないのは確かだし、腰を掴まれて今までにない深いところを責め立てられたらもう言葉は出てこなかった。

「あっだめっ……リンク、やっ……止まってぇっ」

「っつ、……と、止まれなっ、あぁっ………らめ、俺も…、もう、出ちゃう……っ♡」

 いいえ。止まれないのではなくて、本人に止める意思がない、の間違いです。

 気持ちよさそうに汗をぬぐいながら、派手な水音を立てて腰を打ち付ける。逃げそうになる私の頭を抱え込んで狼のような大きな口を開けた。食べられる! と思った瞬間、リンクの分厚い舌が私の口の中を荒らす。

 絶え間なく責め立てる腰と、悲鳴さえ飲み込もうかと言う口と。言葉を失くして私が涙を零すと、リンクは今までになく顔をとろかした。

「ひめさまっ…すき、好きですっ…………ぁあっ♡ だい、好きっ……♡」

「もう、貴方って、ひとはぁっ…♡」

 本当はその言葉を最初に聞きたかった。でも何もないよりはましだし、結果的に私から促さずとも言えたのだから及第点とする。それにもう限界。

 私も今まで感じたことがないほどお腹の奥の方がぎゅうっとなって、奥の方まで潜り込んでいた彼の陰茎をこれでもかと締めつけた。

「ッりん、…あぁっ♡ ……リンクッ!!」

「ぐぁっ……でっ……るうぅ、んんッ♡」

 煮えたぎる下半身を押し付けて、結局彼は二度目の精は私の中にたっぷりと放った。それを許したのは私自身だけれど、やや腑に落ちないところはある。普通人生2度目の射精を女性の中に放つ人がいるだろうか。しかも処女に。

 いや実際に目の前にいるのだが、リンクは私の憂いなど素知らぬ顔でとろんとした顔を私の胸に擦りつけた。

「ひめさま、俺のひめさま。大好き」

 本当に調子のよいことで。でもその端正な顔をふにゃふにゃにして言うのは反則です。

 それどころか許してもいないのに再び胸にむしゃぶりつく。無駄に力強い腕が逃げることを許してくれず、下半身に至っては抜く気配すらなく再び膨らみ始める予兆すらある。

 慌てて頬を軽く叩いて怖い顔をした。

「リンク、もうだめです! めっ!」

 怒ってみたが、反応はなかった。

 次第に胸の飾りに吸い付く力が弱まり、腕もころりと解ける。一体どうしたのか挙動不審になりながら体を起こすと、スヤァと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。

「えっ………えぇ?」

 確かに眠いとは言っていたし、話を信じるのならばここ数日は真夜中ずっと蛮族装備で狩りをしていたことになる。昼夜逆転と言っていた。

 とはいえ。

 まさか初めての事後に寝る人がいますか?

「これは相当、教育が必要ですね……」

 まっさらな勇者を自分の好きな色に染め上げるのはもちろんいい。

 けれどもさすがに、ここまでまっさらすぎるのも問題だ。今後の教育方針に頭を悩ませながら、私はあどけない寝顔のほっぺたをつまんだ。

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