事故と故意の味

 姫様が龍より人に戻ってからしばらくの頃だった。

 自分の手が厳密には元に戻っていないことに気が付いた。

 

「……もしかして、天井抜けられる?」

 

 もちろん見た目はハイリア人の腕に戻っている。しかしどうにも機能的な部分はラウルの腕のままのようで、インパの屋敷で天井を見上げたらいける・・・感じがした。

 ただ、試しにここでやるとインパに怒られるだろうし、こんな面白い機能を姫様が放っておくはずもない。

 

「ぜひ抜けるところを見せてください!」

 

 などと言うのは想定の範囲内。

 抜け出るまさにその瞬間が見たいと言うので、まずは少し広さのある岩山の上にワープマーカーを設置した。姫様が先にワープマーカーで岩山の上に飛び、俺が追うように下からトーレルーフをすれば、姫様は俺が岩を抜け出る瞬間が見られるというわけだ。

 

「では先に岩山の上で待っていますね!」

「俺が行くまで、動かないでくださいよ」

 

 ぽちぽちとプルアパッドの画面を操作して、姫様が見慣れた青い光に包まれる。

 その瞬間、事件が起こった。

 乗ってきた馬が、鼻先でドンとワープ途中の姫様の背を押したのだ。

 

「ひぁ!」

 

 俺が事態を認識した時には、姫様は前のめりに倒れ込んだ状態で、お腹の真ん中から上だけワープして消えていた。

 

「……え」

 

 断面はふわふわと青い光の束が揺れ動くだけで、それ以上ワープが一向に進まない。体が胴で真っ二つになっていた。

 まさかの状態に蒼白になる。さすがの俺もワープが途中で停止したことはなかった。珍しく頭が真っ白になって言葉を失うも、姫様の悲鳴で我に返った。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

「姫様!」

 

 岩山の上で、もがく人の姿があった。もちろん上半身だけ。

 姫様が体の上半分が、斜め下を向いた状態で悲鳴を上げていた。

 悲鳴が上がるのだから無事は無事なのだろう。よく見れば下半身もバタバタと動いていて、どういう仕組みなのかは分からないが、真っ二つでも体は無事のようだ。

 しかしながら異常事態なのは間違いない。

 すぐさま岩山の下に潜り込み、俺はトーレルーフを使った。これで岩を抜け出れば、姫様の真横に出られるはずだ。

 ところが頭を出してみるとあたりは真っ暗。あれ、と周囲を見回しながらいったん抜け出たのは小さな洞窟だった。どうやら山の中は空洞になっていたらしい。

 とはいえ、今は関係ない。洞窟の中でもう一度トーレルーフをすれば姫様の真横に出られる、と適当な位置でやってみたのが間違いだった。

 顔を出したその位置が、姫様の倒れ込んだ顔の目の前だったのだ。

 本当にすれすれ、あとちょっとでもズレていたらキスするところだった。

 ……という理由で、驚いた俺はついうっかり無意識に体を動かしてしまったのだ。その瞬間、体がグンと何かに引っかかった感じがした。

 

「あっ……、え……?」

「リンク?! これ! あの?!」

 

 姫様がパニックでアワアワしている。一刻も早く助けてあげたいのは山々なのだがどうしたことか、俺の体は岩山に半分溶けたまま動かなかった。

 上にも下にも、左右どちらにも体が動く気配がない。えいえいと腕を突っ張ろうとしてもびくともしなかった。

 さーっと血の気が引く。

 

「……………………………………すいません、俺もハマりました」

「えええっ!?」

 

 絶望。まさにそんな表情だった。助けに来たはずの俺が、至近距離まできてハマって動けなくなっているんだから、そう思われても仕方がないと思う。

 いたたまれなくなって正面から顔を見るのもつらい。そもそも近くに頭を出しすぎて、一瞬事故が起こるかと思ったぐらいだ。

 しかしながら互いに上半身だけ岩山の上にあり、姫様の下半身は山の下、俺の下半身は岩山の中。どうすりゃいいんだ、この状況。

 晴れていることだけが救いだが、いつ天気が崩れるとも分からない。早くどうにかしなければと真剣に考え始めた。

 それなのに、姫様が突然「きゃはは」と笑う。

 

「……姫様」

「ご、ごめんなさい、でも馬が!」

 

 言われて岩山の下に置き去りにされた姫様の下半身を見る。

 ここまで乗ってきた二頭の馬が、姫様の下半身の周りをせわしなく歩き回っていた。その合間合間に姫様のお尻だの太ももだのを、ハムハムと齧っているのだ。

 

「ひゃっ、やぁ、あはははっ! くすぐったいです!!」

 

 うーん、これは仕方がない。恐らく馬の方も予想外の事態に困ってしまったのだろう。

 何しろ目の前にあるのは主人の下半身だけ。そばにはなだめてくれる俺もおらずで、二頭とも混乱していそうだ。馬というのは情の深い生き物なので、どうにか残った下半身だけでも労わろうとしているに違いない。しかも馬の唇はとても柔らかく、歯を立てなければとても優しい。ただ今回の場合、それが恐らくあまりよろしくない。

 二頭とも、遠目にも明らかにおろおろとしていて、落ち着きがなかった。「どうしたの、どうしたの」と言いたげに、姫様のバタつく下半身をハムハムぺろぺろと舐めまわしている。

 馬なのだから舐めるのは仕方がない。手なんか使えないんだ、しょうがない。百歩譲ってそれは許す。

 でも次第に姫様から笑い声が消え、鼻から抜けるようなため息に変わった。お前たちはいったい姫様のどこを舐めているのかと怒りたくなった。

 

「んんっ……

「姫様?」

「大丈夫です……、あっ、うぅ……

 

 最初は俺も分からなかった。だって女性のそういう声は、聞いたことがなかったから。

 しかしながら徐々に声が艶っぽく、伏し目がちに「はぁ」とため息をつくのを見れば、経験のない俺でも事情はなんとなく分かった。

 

「あの、もしかして、どこを舐められて……」

「き、聞かないで……もらえますか……うぅんっ

 

 長いまつ毛が挙動不審に揺れ、耳の先からじわじわと朱がさす。諸々の状況を鑑みれば、これはそう・・なのだろうという想像は、童貞の俺にだって難しくなかった。

 馬が羨ましくてそこを代われと思いつつ、事故とはいえ、そんなお姿をまじまじと見るのもはばかられた。仕方がないので、せめて顔を背ける。その背けた方向が(別に見たいと思ったわけじゃないと言い訳はしておく)、非常に悪かった。

 姫様の下半身が、太ももをこすり合わせて揺れているのが見えてしまったのだ。

 見たこともないぐらいぴったりと閉じられた太ももと、つんと突き出したお尻。そんな状態で、前から後ろから馬が二頭がかりで心配そうに舐められている。

 これは予想以上に、いろいろとまずい感じだった。

 

「み、見ないでくださいっ!」

「ごごごめんなさい!」

 

 ゴンっと打ち付ける勢いで顔を岩山のてっぺんにこすりつけた。その頭上で、また「あぁん♡」と声が聞こえた。ちょっぴり理不尽を感じたが、見るなと言われれば俺はそうするしかなかった。模範たれ模範たれ、でも模範ってなんだっけと内心で首をかしげる。

 しかし本気でどうすりゃいいんだこの状況。俺は抜けられないし、姫様も抜けられないし、しかも舐められているし。

 

「あっ、んん……はぁっ

 

 質の悪い淫夢でも見てるみたいだ。

 こんな状況では誰かに助けてもらうのは絶対に駄目だ。ならば俺が先に抜け出て姫様を助けるしかないのだが、俺は体が動かせないまま頭も空回りしていた。

 俺の下半身もまた、ちょっとまずい状況になりつつあった。

 

「はっ……あぁ………

「……っ」

 

 誓って、これは不可抗力だと言いたいのだが、姫様の艶声は想像以上に下半身にくる。

 見えていたらバレる程度には、すでに俺自身も固くなりつつあった。

 そりゃあ顔と顔とが触れるぐらいの近距離で、頬を染めながらよがり声を出されたら誰だって無理だ。きっと百年前だって無理だったと思う。男なら絶対無理だと請け負おう。

 そういうわけで、見えないところで俺の息子はむくむくと大きくなって、パンツのなかで存在感をあらわにしていた。触らなくともわかるぐらいキツイ。

 ただ幸いにも物理的には触ることができないのでもどかしいものの、これ以上はどうにもならなかった。手が地上に抜け出ていてよかったと思ったぐらいだ。

 これが俗にいう死亡フラグというものだと理解したのは、その直後だ。

 何者かが俺の足に触れた。

 

「うあぁ?!」

「……どうしたの、です?」

 

 手だというのはすぐに分かった。爪のある三本指の生き物が、俺の足を掴んだのだ。決して襲おうというような掴み方でなかったが、いきなり見えないところから足を掴まれたのでびっくりして蹴り飛ばしてしまった。

 意外と岩山のてっぺんは薄いらしく、俺の下半身は岩山の洞窟の天井にぶら下がっている状態らしい。ぎゃっと岩山の中から声が聞こえた。

 

「何かに、足を掴まれました……!」

「えぇ……? んっ、ぁー……っ

 

 喘ぐのか、一緒に考えてくれるのか、お忙しそうなのでどっちか一方でいいですよ。……とも言えず。

 おかげで瞬間的に萎えたのは幸運だったが、それにしたって誰かに下半身を触られるなんて気持ち悪すぎる。ばたばたと足を動かして、何度か蹴った感覚はあった。しかしどうしてかそいつは諦めることなく、長い棒のようなもので俺の足を絡めとる。ついには俺の両足首を掴んで固定しにきたのだ。

 この段になって、俺の腰回りには少なくとも二人以上の何かがいると分かった。三本指の手が四つがかりで、俺の両足を封じたからだ。

 

「くっ、なんだ、くそ……!」

「あ、あのっ……あっ………岩の中ですから、ふぁ… ほ、ホラブリン、……とか?」

 

 一日に二度も血の気が引くのはあまりない。

 言われてみれば岩山の中は小さいながらも洞窟になっていて、恐らく俺の下半身はその天井にぶら下がった状態なのだろう。想像してみると、間抜けすぎるんだけど……。

 そんな天井にぶら下がった下半身を長い棒で絡めたり、掴んだりできる生き物は、ハイラル中を歩き回った俺でもホラブリンしか思い当たらなかった。

 

「もしホラブリン、なら……むやみに暴れるとっ…んっ 逆に危ない、かも……!」

「たしかに……!」

 

 体力面ではボコブリンと大して変わらないのに、天井にいるときのホラブリンは意外と侮れない。逆さまで自由に移動できるのが自分たちだけだという自負でもあるのか、地面にいる時の数倍は凶悪だった。岩を投げつけられたことは数えきれない。

 そんなホラブリンに俺はいま、下半身の命運を握られてしまったわけだ。

 

「なんでホラブリンなんかに……」

「あっ、あっ だめぇ、そこ、ハムハムしないでぇ……!」

 

 ふるふると首を振りながら、もはや姫様は取り繕うこともできなくなっていた。はふはふと息を弾ませ、ひくひくと体を震わせている。そんなところを見せつけられたら、たまったものじゃない。

 普段はやましいことは微塵も考えていませんという顔をしているけれど、俺だってもちろん考えないことはないのだ。でもこんな見抜き推奨みたいな状況になるとは、想像だにしていなかった。でもこれはきっと馬だから許されるんだろう。

 馬ずるいなぁ、などと思えば、萎えた息子に血が戻っていく。ホラブリンは足だけの俺をハイリア人とは認識していないのか、持ち上げたり、突っついたりしていた。

 そこへむっくりと主張するものがあれば、当然ながら「このふくらみはなんだ?」と奴らも気が付く。足全体をいじりまわっていたホラブリンの爪が、ベルトをひっかけて切り裂く感覚があった。

 

「うわっ」

「……リンク?」

「脱がされ、ました……」

「へ? あぁっ、ひぁぁ あっ、だめぇっ……ひっぱっちゃ、いやぁ

 

 脱がされたのは俺のズボンのはず、と思ったのだが、どうにも馬たちは姫様のブーツを脱がせたらしい。こっちもあっちも、装備を剥ぐのが流行っているんだろうか。でもそれって追剥っていうよなぁ。

 馬たちは脱げた足先を舐めまわし、ほどなく靴下は脱がされた。びくっと大きく体を震わせて、姫様は今までより少し高い声を発する。

 

「指の間…は、……らめぇ……

 

 姫様は足を舐められるのが弱いんだなぁという感想を、俺は辛うじて発さなかった。なぜなら盛り上がったパンツの上を行き来するホラブリンの爪に、歯を食いしばっていたからだ。

 もちろん、抵抗なく切り裂かれるよりかは断然いい。今ここでそれをやられたら確実に死ぬ。でもこのままいくと、社会的な死も目前に迫っている気がした。

 ホラブリンたちは、凹凸の一つ一つまで確かめるように、俺の股間を撫でまわし始めたのだ。

 

「んっ……

「り、んく……?」

「あ、いえ……その……っんふ

 

 だが何をどう判断したのか、二匹のホラブリンは俺の股間を至極丁重に扱っている。丁寧なのは大事なことだ、乱暴にされるよりずっといい。

 でも子供が宝物の石ころでも愛でるみたいに、二匹で交互に俺の盛り上がった股間を触るのはやめてほしい。

 自分でもわかるぐらい、顔が熱くなってくる。姫様のことを言っている場合ではなく、俺もまた「ああ」と思わず目を瞑って嘆息してしまった。

 

「はあぁ……

「もしかして……リンク? そう、なの? ……んぁ

「………ホラブリンが…ぁ、おれの……んんっ

 

 思わず唇を噛んで感覚をやり過ごす。

 はたから見れば滑稽だろうが、運よく目撃者はいない。むしろいたら困る。

 だって俺と姫様は上半身だけ向かい合って、下半身は全く別の場所で別の何者かにいじられているのだから。こんな偶然があってたまるものか。

 そうこうしているうちにホラブリンたちは、大事なプレゼントでも開けるかのようにパンツをずり下ろした。すうっと股の間を冷たい空気が抜けていくと同時に、すでに重力に逆らって勃つ俺のイチモツに手をかける。生き物はどうして棒状の物体を見ると握り込みたくなるのだろう。生ぬるいゴツゴツした三本指が先走りでドロドロになった俺の肉棒を優しくニギニギし始めた。

 

「あっ、あぁ に、握んなァ

「んあ リンく…の、お顔も……んっ かわいくなって、ますよ

「ちょ、姫様ぁ

 

 そんなことを言っている場合じゃないでしょうと思ったものの、思わず差し出された手を握ってしまった。不躾にも指を絡めて、見えない下半身から突き上げてくる衝動をこらえる。

 姫様もせつなそうに眉根を寄せながら俺の手を握り返してくれた。こんなシチュエーションじゃなければ舞い上がるのに、馬とホラブリンでは色気もへったくれもない。

 っていうか握った手。手があるってことは、プルアパッドでもう一度ワープすれば姫様だけ助かるのでは? 地形ハマリの脱出方法はリセットかワープがデフォでしょ? と、どこが発信源か分からないメタな情報が頭をよぎる。

 

「ひっ、ひめさ、はぁっ ワープ、してぇ ワープ!」

「そ、それが……あぁん

 

 差し出されたのは右手だけだった。

 なんで右手だけなのかと考えてみて、なるほど操作した直後だから右手だけこっち側に先に来たんだなと分かった。つまり左手はプルアパッドを持ったまま、馬に舐められている下半身の方にあるらしい。これでは再度のワープはできない。

 つまり助かる順序としては、まず俺が岩山から抜け出る。次に姫様の下半身の方へ行って、姫様を再度ワープさせる。これしかない。

 しかし最初に動くべき俺は、いかんせんハマったまま今や完全に下半身を蹂躙されていた。一匹のホラブリンが俺の両足を広げて持ち、もう一匹がそそり立つ男根を懇切丁寧にしごいているのだ。

 そのうち、ふにっと柔らかいものが袋に当たって、思わず腰が跳ねる。

 

「ふあぁぁ

 

 ふにふにと、ぬるく柔らかいものが、裏筋に何度も押し付けられた。妙に柔らかい感覚に、とろけそうになる頭を乱暴に振る。

 でもこれたぶん、ホラブリンの鼻だよなぁと、どこかまだ冷静な頭の片隅で奴らの顔を思い出した。ボコブリンの鼻が豚のような鼻なのに対して、ホラブリンの鼻はなぜか垂れ下がった鷲鼻だ。

 

「リンク、だめぇ ホラブリン、なんかに…っまけ、ないでぇ!」

 

 まず馬に負けたのは姫様でしょ、と言わないけれど、今の俺はホラブリンに勝つ自信は全くなかった。

 どうして玉袋に鼻が何度も当たるのか、少し考えればわかることだ。

 だって奴らの鼻の下にあるのは口だろう。

 

「ふっ、んうぅ

 

 まず大きく一回、舐められた。

 それからぱっくりと付け根まで咥えられて、背をのけぞらせる。

 食われたわけじゃないと分かったのは、歯が当たらなかったからだ。器用に舌を操って、べろんべろんと全体を舐めてくる。そうやって先走りを全部舐め終えると、次はちゅうちゅうと吸われた。念入りに鈴口を舌で押し開くようにして吸っている。岩山で隔てられていなかったら、じゅるじゅると音が聞こえたかもしれない。

 それが一匹分終わると、俺の足を広げて持つ方と舐める方が入れ替わった。しばらく竿をニギニギすりすり、まるで牛乳でも絞り出すみたいに扱かれ、我慢できずに俺が先走りを出すとそれを舐めとる。最後は物足りないとばかりに先っぽを吸われて交代だ。そんなことが何度も続く。

 

「あァッ、ウぁっ 俺はッ、蜜が出る…っ、花じゃ、っぁあ ないんだぞ……?!」

「そんなのッ、んあぅぅ! 知ってますぅ

 

 姫様に言った訳じゃないし、むしろ姫様こそ蜜じゃないのとは思わないでもない。

 本来ならこんなに蕩けた姫様お顔を見られるのは、秘所を暴かれた時ぐらいだろう。あんまり期待はしていなかったが、もしそんな状況に立ち会う機会がこの先の人生で起こるとしたら光栄だなぁなんて、考えたことも確かにあった。

 ……と、つとめて綺麗に表現してみたが、つまるところ俺は姫様をおかずにしたことがある。

 すいません、ごめんなさい。でもそういう年頃なので許してほしい。

 でもこれは、その罰なのかもしれない。

 大事な過程を全てすっ飛ばし、俺の目の前で姫様はその桃色の唇から淫靡な唾液をこぼしながら喘ぐのだ。それがどこの馬の骨の手によるでもなく、正真正銘の馬の仕業とはこれ如何に。しかも俺自身はホラブリンにいいようにしゃぶられている。

 ちらりと横目に下半身の様子を伺えば、ブーツどころかパンツまで馬たちは引っ張って脱がせてしまったようだった。馬たちに舐められている白いお尻が、露骨にゆさゆさと揺れているのが見えてしまった。それがまた俺自身に追い打ちをかける。

 筆舌に尽くしがたいほど屈辱的な状態なのに、残念ながら体の方は刺激であれば何でもいいらしい。若いって恐ろしいし、薄情だなぁと思う。

 

「ふぅっ んっ、だめ、……っ、…んあぁ、姫様ぁッ

「わたし、もうっ やぁンッ

 

 行き絶え絶えの姫様にある瞬間、ぱっと手を振りほどかれた。

 今まで互いにすがり合うように絡んでいた指が、突然不安にさまよう。どうして俺がから逃げるの、一人だけどこへ行くんですかと非難がましく、睨みそうになった。

 ところが姫様は右手を俺の耳の後ろに差し込んで、さらに前のめりに体を伸ばす。

 出会いがしらの事故によるキスを回避するために身をよじった結果がこれだ。当然、伸ばせば容易に手が届く距離に、互いの顔があった。

 パクリと唇を咥えられる。

 下半身では情け要さなくホラブリンに男根を啜られながら、上半身では姫様に唇と舌とを吸われる。ラッキーとアンラッキーは平均をとるとバランスよくなるように、世界は仕組まれているに違いない。

 

「せ、せめてっ……、リンクに触らせ、てぇっ あっ、あぁっ、んんんっ

 

 ちょっと待って。冷静に考えると、その場合の俺の役割って何? 下は俺じゃないんでしょ……?

 普段の俺なら咄嗟にそう問いかえすこともできたかもしれない。ところが今日はもう冷静は完売していて、売れ残っているのは焦りと混乱だけ。問いかえすこともままならず、代わりに空いた両の手のひらで姫様の頭を包み込んだ。

 せめて触らせてというのなら望まれるままに。じゅるじゅるとわざとらしく音を立てて舌を吸い返し、夢にまで見た姫様との深くキスをする。

 ただでさえいきり立っていた己が、さらに太く固くなったのは言わずもがな。思わずへこへこと腰が動きそうになったが、残念なことにホラブリンは器用に足まで使って俺の身体を固定し始めた。吸いづらいから動くなということらしい。ひどい。

 ホラブリンたちは何が美味しいのか俺のちんこを交代で舐めまわし、馬たちはいまだ落ち着きなく姫様のお尻をハムハムぺろぺろし続ける。姫様も俺ももうそろそろ限界だった。

 ぞくぞくと背筋を這いあがってくる感覚を解放すれば、とんでもなく気持ちいいことは分かり切っている。でも姫様と必死で繋いでいるのは下半身ではなく、上半身なのだ。

 人として大事なところで大負けを期した気はしたが、姫様と二人なので、もう諦めることにした。

 

「やぁっ、リンクリンク らめぇ、イっちゃうの イっちゃうぁぁん……!」

「まっ、俺も、…むりッ……っああぁぁぁぁ

 

 姫様のひときわ甲高い喘ぎ声でイってしまったのが分かった。お顔が蕩けたのを見届けて、俺の方もため込んでいた欲を吐き出す。二匹のうちのどちらかの口の中にぶちまけたらしい。

 どんな赤信号だって、二人で渡れば怖くない。

 でも、イったところで、何も問題は解決していなかった。

 

「リンクぅ……助け、て……くださいぃ…………」

「…………………………はひ」

 

 俺だって助けたいですよ。でもどうしたら抜け出せるのか分からないんです。

 そう思って情けなくなって視線を落とす。それでようやく岩山に亀裂が入っているのを見つけた。

 

「……割れば、いいんじゃん…………」

 

 落ち着いて周囲を確認するべきだった。亀裂が入っているのなら、割れば抜け出ることができるじゃないか。

 ちくしょうと唸りながら、拳で岩山のてっぺんを割った。人生って諦めてからが本当の勝負なんだなと思った。

 予想通り、俺の下半身を舐めまわしていたのは二匹のホラブリンだった。突然差し込んだ日の光に「ひぃ!」と驚いて目を隠した瞬間に、問答無用で斬ってやった。奴らのうち、どっちが俺の一番濃いところを啜ったのかは分からない。

 それから脱がされたパンツを履きなおし、急いで岩山の下へ戻る。

 馬たちを落ち着かせながら遠ざけ、トロトロになった姫様の下半身のところへ急いだ。

 

「う、ううん……これは、なんとも」

 

 またしても、息子が元気になりそうな光景だった。

 パンツまでひん剥かれた真っ白いお尻が、馬に舐められててらてらと輝いている。これはこれでそそってしまう、と悪い考えが頭をよぎった。

 

「リンク――……!」

「…………ハッ」

 

 そうだ、俺は姫様を助けに来たのだった。決してもう一回、今度はちゃんとやりたいなんて思ってない。そこまで罰当たりなことは考えていない。

 慌てて首を横に振り、急いでプルアパッドを持っていた姫様の左手を覗き込んだ。そこで、あれ? っと首を傾げる。

 プルアパッドは地面に落ちていた。何かの拍子に落としてしまったのかもしれない。それはまだ分かる。

 ところが姫様の空いた左手は、何とも言えずしっとりと濡れて糸を引いていた。

 

「……姫様、まさか」

 

 馬が舐めたのかとも思ったが、それにしては袖口などは濡れていない。指先だけなのだ。

 馬が指先だけ舐めた? そんな器用なことするかな?

 だとしたら姫様はいったい何を触っていたのか、ごくりと唾を飲む。それは実にいかがわしい想像だったが、瞬間的に俺の頭を占めたのは「ずるい」という気持ちの方だった。

 

「俺は、ずっと手が使えなかったのにぃ?!」

 

 俺だって下半身は非常にもどかしかったのだ。もう少し握るよりも扱いて欲しかった。なのにホラブリンときたら、ひたすらニギニギニギニギ。牛の乳じゃないんだぞと言いたいぐらいだった。

 そこへきての『まさか』である。

 もし姫様がお尻をハムハムされた衝動で、自分だけでいいところを触っていたとしたら……? それはさすがの姫様でも、ちょっと許しがたい。

 いったい姫様が左手で何をしていたのかは後で聞くことにする。それぐらいは許されるだろうし、すでに互いにイくところを見合ったのだから怖いものはない。

 それはそうとして、ひとまず俺は、事件の発端となったお尻をひと齧りさせてもらうことにした。非常に美味であった。

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